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歴史的にも学術的にも価値が高い古貨幣コレクション 東大の宝(第3回)

掲載日:2025年7月29日

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東京大学経済学部資料室には、日銀の貨幣博物館に次ぐ価値を有すると目される東洋古貨幣コレクションがあります。
その総数は約1.2万枚。マニア垂涎の貨幣はもちろん、学術的な価値が高いものも多いのが特徴です。
24年にわたって資料室を担当してきた先生が推すお宝とは?

歴史的にも学術的にも価値が高い古貨幣コレクション

小島浩之
KOJIMA Hiroyuki

経済学研究科講師
経済学部資料室室長代理

小島浩之

「経済学部資料室の淵源は、ドイツ人教師ジークフリート・ベルリネルの提案を機に1913年に発足した、東京帝国大学法科大学の商業資料文庫に遡ります。企業資料で日本経済の実証的研究を促すという趣旨でした。次第に官庁や経済団体の刊行物も集めるようになり、1939年に経済学部資料室と改称されました」と語るのは、2000年から室を担当してきた小島浩之先生。企業資料を収蔵する室の宝となるコレクションの成立には、学究肌の実業家の存在がありました。

「タカジアスターゼで知られる高峰譲吉の弟で、塩酸や硫酸で高いシェアを誇った藤井化学の経営者、藤井栄三郎です。篤志家として多くの学会に貢献する一方で、当代有数の貨幣蒐集家でもありました」

関東大震災で工場が甚大な被害を受けたものの、自宅の貨幣コレクションは幸い難を逃れます。学術のためにも大学にあったほうがよいと考えた彼は、慶應義塾大学の研究者に打診。そのつてで受け入れを進めたのが、東大で貨幣論を講じていた山崎覚次郎でした。1927年に寄贈されたコレクション中、最多は約6400点ある中国貨幣ですが、日本の貨幣も約2700点と多数。代表的なのは天正から万延まで発行された全6種が揃う大判です。

「幕府は時の経済状況により金の比率を調整しました。ただし金の比率が小さいものの、元禄大判など歴史的価値の高いものもあります。大判は恩賞用でしたが、小判などは多く流通させて経済を活性化させたり、インフレを引き締めるために流通を抑えたり。貨幣は時代を映し出します」

天正から万延まで発行された全6種が揃う大判
「大判は石の上で叩いて作るため裏面に石目がつきます。表(上代半金は裏)面の墨書には、膠分の多い墨が使われています」(小島)
中国の永楽通宝
「中国の永楽通宝は銅ですが、これは金。裏面に桐紋があり、島津征伐で戦功があった大名に秀吉が与えたと考えられます」(小島)

見た目は地味ながら資料室一の宝として小島先生が推すのは、室町時代の上代判金と上代方金。前者は俵形の大判としては最古で、現存するのはここだけと目される貨幣です。

「足利家お抱えの彫金師の一族に後藤家があります。後に徳川幕府の信を得て金座・大判座を統括し、大判6種には「後藤(花押)」の墨書があります。同様の墨書が見られる上代判金は、以後の大判の前身と考えられます」

四十四匁一分(166g)と重さが記されているのも注目点。江戸時代の金貨は両・分・朱という通貨単位をもっており、重さが書かれていません。この点で、上代判金が、不定量目だった日本の貨幣が計数貨幣へ発達する前史を示していると見なす研究者もいます。

「藤井が学術での活用を期待した古貨幣ですが、実はその期待にはあまり沿えていません。貴金属的価値が高いため、セキュリティが高い施設でないと展示が難しく……。一方で資料室ではデジタルアーカイブ化を早くから進め、2007年からウェブで公開しています」

1927年の寄贈から、2027年で100年。特別な収蔵品で特別な展示を実施するには絶好の頃合いが近づいています。

上代判金・上代方金
「長方形の上代方金の裏面には九匁四分の墨書が、表面には雁金模様の小印が施されています。東アジアの通貨は銅が基本であり、金も通貨に用いたのは日本だけでしょう」(小島)
経済学部資料室
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産業に関わる資料、特に公的保存機関がない企業資料では日本屈指の量を誇る資料室。数十万に及ぶ資料群の保存とデジタル化を日々進めています。企業資料以外では古貨幣のほか、新渡戸稲造が寄贈したアダム・スミス旧蔵書(約300冊)、安田善次郎(2代目)が寄贈した藩札(2.5万枚)が特筆もの。

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