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天の川の「あやつり糸」の断層撮像に初めて成功――三次元磁場構造の初観測で天の川銀河の構造形成の謎に迫る――研究成果

掲載日:2024年1月12日

2024年1月12日
東京大学
広島大学
香川大学

発表のポイント

  • これまで全く知られていなかった天の川銀河の渦巻き腕内部の磁場構造を、三次元的に測定することに初めて成功しました。
  • 予想に反し、天の川に沿った面から大きく傾いた滑らかな磁場構造が、折り重なるように存在することを初めて明らかにしました。
  • 今回確立した磁場構造の断層撮像技術を用いて、今後天の川の中で活発な星形成を引き起こすガスが集積する過程を、観測的に明らかに出来ると期待されます。
天の川銀河のいて座渦巻き腕内部の磁場構造を初めて三次元的に解明

発表概要

 東京大学大学院総合文化研究科の土井靖生助教と、広島大学宇宙科学センターの川端弘治教授、香川大学教育学部の松村雅文教授らによる研究グループは、天の川銀河の渦巻き腕(注1)のひとつである「いて座銀河腕」の内部の磁場構造を三次元的に明らかにすることに世界で初めて成功しました。

 本研究では、いて座の天の川方向の184個の星を広島大学かなた望遠鏡(注2)を用いて精密に観測しました。その結果をヨーロッパ宇宙機関が打ち上げたGaia(ガイア)衛星(注3)の測定による各星までの正確な距離と組み合わせることで、「いて座銀河腕」の内部の磁場が、星までの距離に応じて天の川の方向から大きく傾いて折り重なるように分布することを初めて明らかにしました(図1、図2)。それぞれの距離で、磁場は乱れることなく非常に滑らかに分布することが分かりました。

 研究グループは、天の川方向の磁場を奥行き方向に切り分けて検出する技術を初めて確立することで、これまで全く知られていなかった磁場の三次元分布を明らかにしました。今後この手法により、天の川の中で活発な星形成を引き起こすガスの集積過程について、観測的に明らかに出来ると期待されます。

図1:いて座銀河腕方向の星間磁場の向きと地球からの距離毎の分布
左図:星空画像中の白線が一つ一つの星の示す星間磁場の向き。
右図:左図の結果を各星の距離毎に分解し、それぞれの距離の磁場分布を取り出すことに成功しました。
図2:地球からの距離毎の磁場の三次元分布

発表詳細

大学院総合文化研究科のページからご覧ください。

用語説明

(注1)天の川銀河の渦巻き腕
天の川銀河は全体がゆっくり回転しており、回転する方向に巻き込まれる様な渦巻き構造をしていると考えられています(「渦巻銀河」と呼ばれます)。渦巻きの濃く見える部分を「渦巻き腕」と呼びます。渦巻き腕にはガスや塵が多く集まっており、この内部で盛んに新しい星が生まれています。

(注2)かなた望遠鏡
広島大学東広島天文台の所有する口径1.5mの光学望遠鏡です。可視光・赤外線の偏光観測を広い視野で行うことに特化した観測装置「HONIR」(広島大可視赤外線同時撮像装置)を用いて、星からの光が磁場の影響を受けて生ずる「偏光」を多くの星について観測しました。

(注3)Gaia衛星
ヨーロッパ宇宙機関により2013年に打ち上げられ、天の川銀河内外の5億個以上の星の正確な位置と距離を測定しています。

論文情報

Yasuo Doi*, Kengo Nakamura, Koji S. Kawabata, Masafumi Matsumura, Hiroshi Akitaya, Simon Coudé, Claudia V. Rodrigues, Jungmi Kwon, Motohide Tamura, Mehrnoosh Tahani, Antonio Mario Magalhães, Reinaldo Santos-Lima, Yenifer Angarita, José Versteeg, Marijke Haverkorn, Tetsuo Hasegawa, Sarah Sadavoy, Doris Arzoumanian, Pierre Bastien, "Tomographic Imaging of the Sagittarius Spiral Arm's Magnetic Field Structure," The Astrophysical Journal: 2024年1月11日, doi:10.3847/1538-4357/ad0fe2.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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