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ヒト抗体を超迅速に作製する技術 - ヒトADLibシステム - 研究成果

掲載日:2020年5月27日

 東京大学大学院総合文化研究科 瀬尾秀宗特任研究員と太田邦史教授らの研究グループは株式会社カイオム・バイオサイエンスが開発したヒトADLibシステム(試験管内でヒト抗体を迅速に作製・改良する技術)に関して、同社と共同で科学的検証と実用性評価を実施し、抗体創薬開発における同技術の有用性を立証しました。現在、抗体はその高い薬効と安全性から多くの疾患の治療薬として医療の大きな柱となっています。発表者らは、既に初期段階の研究として、鳥類免疫細胞における抗体遺伝子間シャフリングの高速化を利用した試験管内抗体作製技術「ADLibシステム」を開発しています。本手法は、従来法とは一線を画す特長を備えていますが、ここで得られる抗体は鳥類由来の抗体であるため、ヒトに投与するためには「ヒト化」と呼ばれる作業が必要な点が課題でした。
 株式会社カイオム・バイオサイエンスでは、この鳥類細胞の持つ抗体遺伝子をヒトの抗体遺伝子と入れ換え、ヒト抗体遺伝子間でシャフリングを起こさせることにも成功しました。この技術の確立によりさまざまなヒト抗体を産生する細胞集団を調製できるようになり、ここから標的に対して結合するヒト抗体を取得することが可能になりました。すなわち、本技術を用いれば、ヒト化を行う事なく試験管内で直接ヒト抗体を取得することが出来ます。このヒト抗体作製を実現する一連の技術を「ヒトADLibシステム」と命名して実用化しています。今回、このヒトADLibシステムを用いて、モデルとして抗がん剤の標的となるヒトのタンパク質に対する抗体を作製したところ、これらのタンパク質の機能を阻害する、即ち抗がん剤に必要とされる薬理活性を有する抗体が得られました。さらに、これらの抗体を産生する細胞中で再度抗体遺伝子を多様化し、そこから標的に対する結合力が強化された抗体を単離する「親和性向上」にも成功しました。これにより、当初得た抗体に比べ、阻害活性の大幅な向上が認められました。従来の親和性向上プロセスは非常に手間と時間がかかるものでしたが、本手法は簡単な一連の培養作業・選別作業を実施するだけで完了するのが大きな利点です。
 ヒトADLibシステムにより抗体取得から親和性向上までを極めて迅速かつ簡便に実施できるようになり、抗体医薬開発の加速が期待されます。
 本成果は、2020年5月26日にCellular & Molecular Immunology(オンライン版)に掲載されました。

論文情報

Hidetaka Seo, Hitomi Masuda, Kenjiro Asagoshi, Tomoaki Uchiki, Shigehisa Kawata, Goh Sasaki, Takashi Yabuki, Shunsuke Miyai, Naoki Takahashi, Shu-ichi Hashimoto, Atsushi Sawada, Aki Takaiwa, Chika Koyama, Kanako Tamai, Kohei Kurosawa, Ke-Yi Lin, Kunihiro Ohta and Yukoh Nakazaki, "Streamlined human antibody generation and optimization by exploiting designed immunoglobulin loci in B cell line," Cellular & Molecular Immunology, doi:10.1038/s41423-020-0440-9.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

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