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iPS細胞樹立時に起こりうる異常の同定とその回避方法の開発 ~安全な細胞運命制御技術の開発に向けて~ 研究成果

掲載日:2019年5月1日

 八木正樹 研究員(ハーバード大学、研究当時:東京大学医科学研究所)、山本拓也 准教授(京都大学iPS細胞研究所)、山田泰広 教授(東京大学医科学研究所 )らの研究グループは、マウスおよびヒトのiPS細胞樹立過程をDNAメチル化に着目して解析し、体細胞初期化過程において特定のインプリント制御領域(注1)にDNAメチル化異常が起こりうることを示しました。さらに、そのDNAメチル化異常を回避する体細胞初期化方法を見出しました。また、小児がんにおいて体細胞初期化に関連するDNAメチル化異常がしばしば観察されることを明らかにしました。これまで体細胞初期化過程におけるゲノムインプリンティング(注2)の安定性の詳細は明らかになっていませんでしたが、本研究ではiPS細胞におけるゲノムインプリンティング異常の詳細を示すとともに、その異常を回避する細胞初期化技術の開発に応用できる可能性を示しました。さらには小児がんの発生に体細胞初期化に起こりうる異常が関与している可能性を示しました。近年、細胞老化を伴う個体の機能低下が様々な疾患の発症に関与していることが明らかになってきました。体細胞初期化により老化細胞の特徴をリセットできることが示され、iPS細胞作製技術は再生医療への応用のみならず、細胞老化の制御にも応用できることが示唆されています。本研究成果は、安全な細胞運命制御技術の開発に貢献することが期待されます。

用語解説:
(注1) インプリント制御領域 精子や卵子が作られる過程で、DNAメチル化などのエピジェネティックな修飾を受けてインプリント遺伝子(注2参照)の発現を制御しているゲノム領域のことを指す。

(注2) ゲノムインプリンティング 遺伝子の多くは父親由来と母親由来の2つの遺伝子(対立遺伝子)を持っている。原則として父親由来、母親由来双方の対立遺伝子がどちらも同じように働く、あるいは働かないよう制御されている。しかし、いくつかの遺伝子は、生殖細胞(精子あるいは卵子)ができる過程で父親由来あるいは母親由来の遺伝子に「しるし」がつけられ(DNAメチル化)、父親由来、母親由来片方からのみ発現を示す(インプリント遺伝子)。そして、この「しるし」は受精卵や子の体細胞に記憶(維持)される。体細胞におけるインプリンティングの維持はほ乳類の発生や恒常性維持に重要であることがわかっている。

論文情報

Masaki Yagi, Mio Kabata, Tomoyo Ukai, Akito Tanaka, Yui Shimada, Michihiko Sugimoto, Kimi Araki, Keisuke Okita, Knut Woltjen, Konrad Hochedlinger, Takuya Yamamoto*, Yasuhiro Yamada*, "De novo DNA methylation at imprinted loci during reprogramming into naïve and primed pluripotency," Stem Cell Reports

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