PRESS RELEASES

印刷

光制御性ウイルスベクター ウイルスベクターの遺伝子発現や増殖を自由自在に操れる世界初の技術 研究成果

掲載日:2019年5月28日

 再生医療、癌治療、そして遺伝子治療などの分野において近年医療は目覚ましい進歩を遂げています。これら全ての分野においてウイルスベクターは、不可欠な役割を果たしています。ウイルスベクターの性能の一つとして期待されつつも困難とされてきた技術の一つが、ウイルスベクターの遺伝子発現や増殖を意のままに操ることでした。この技術があれば、不要になったウイルスベクターは簡単に取り除くことができますし、また必要な場所、必要な時にだけ増殖させることができ、利便性や安全性が飛躍的に向上します。

 今回、田原舞乃主任研究官、竹田誠部長(国立感染症研究所)、佐藤守俊教授(東京大学大学院総合文化研究科)、谷憲三朗教授(東京大学医科学研究所)らの共同研究グループは、マグネット(注1)という光スイッチタンパク質を使って、遺伝子発現や増殖を思いのままにスイッチオン・スイッチオフできる世界初のウイルスベクター(注2)の開発に成功しました。

 同グループは、モノネガウイルス(注3)の仲間、麻疹ウイルスと狂犬病ウイルスをモデルに用いて実験を行いました。マグネットをウイルスのポリメラーゼ(注4)に組み込んで、青色光で照射された時にだけポリメラーゼが働いて、ウイルスが遺伝子を発現し、増殖することを確認しました。また動物を用いた実験で、本ベクターを接種して青色光の照射を受けた癌が、著しく縮小することを確認しました。今後、再生医療、遺伝子治療、癌治療などの分野を一層発展されることが期待できます。

用語解説:
(注1)マグネット(Magnet)
アカパンカビ(Neurospora crassa)の青色光受容体ヴィヴィッド(Vivid)の人工的変異体。正電荷を持つポジティブマグネットと負電荷を持つネガティブマグネットからなる。青色光照射に反応して、ポジティブマグネットとネガティブマグネットが結合する(スイッチオン状態)。光を遮断するとお互いに離れて元に戻る(スイッチオフ状態)。

(注2)ウイルスベクター
外来の目的遺伝子を目的の細胞へ運ぶために改変されたウイルス。

(注3)モノネガウイルス
分節化されていない一本鎖のマイナス鎖RNAをゲノムに持ったウイルスの総称。モノネガウイルス目のウイルスのことを指す。ヒトのみならず動植物のウイルスなど、さまざまなウイルスが含まれているが、遺伝子の構造や遺伝子の発現の仕組みは類似している。麻疹ウイルス、狂犬病ウイルス、センダイウイルス、水疱口内炎ウイルス、エボラウイルス、パラインフルエンザウイルス、ニューカッスル病ウイルスなどが含まれる。

(注4)ポリメラーゼ
核酸を鋳型として、相補的な塩基配列の核酸を合成する酵素の総称。モノネガウイルスの場合、RNAを鋳型にして相補的なRNAを合成するRNA依存性RNAポリメラーゼを持っている。

論文情報

Maino Tahara, Yuto Takishima, Shohei Miyamoto, Yuichiro Nakatsu, Kenji Someya, Moritoshi Sato, Kenzaburo Tani, Makoto Takeda*, "Photocontrollable mononegaviruses," Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, doi:https://doi.org/10.1073/pnas.1906531116.
論文へのリンク (掲載誌別ウィンドウで開く)

関連リンク

アクセス・キャンパスマップ
閉じる
柏キャンパス
閉じる
本郷キャンパス
閉じる
駒場キャンパス
閉じる