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ほ乳類とレトロウイルスの進化的軍拡競争の網羅的描出研究成果

掲載日:2019年12月18日

 東京大学医科学研究所 感染症国際研究センター システムウイルス学分野の佐藤准教授らは、ヒトを含む160種のほ乳類のゲノム配列のメタ解析により、ウイルス感染を防御する遺伝子APOBEC3(注1)の進化原理を明らかにしました。

 内在性レトロウイルス(endogenous retrovirus; ERV、注2)は、宿主のゲノム中に残るウイルス感染・侵略の痕跡です。ヒトを含む哺乳類において、ERVはゲノムの大きな割合を占めているため、哺乳類の祖先は大量のレトロウイルス感染にさらされてきたと考えられています。このようなレトロウイルス感染に対抗するため、哺乳類はさまざまなウイルス感染防御機構を進化させてきました。ウイルス感染防御を担う遺伝子のひとつに、APOBEC3ファミリー遺伝子があります。興味深いことに、APOBEC3ファミリー遺伝子は、ほ乳類の進化の過程において遺伝子重複によりコピー数を増大させ、多様化したことが示唆されています。このことから、レトロウイルスの複製・増殖を抑制するために、ほ乳類のAPOBEC3ファミリー遺伝子の重複と多様化が引き起こされた可能性が考えられました。

 この可能性を検証するために、本研究では、大規模バイオインフォマティクス解析により、ゲノムが解読されている160種のほ乳類それぞれの種が保有するAPOBEC3ファミリー遺伝子の数と、ゲノム中に挿入されたERVの数を計数しました。その結果、多くのERVがゲノム中に蓄積しており、過去に大量のレトロウイルス感染を経験したと思われる動物種ほど、多種多様なAPOBEC3ファミリーの遺伝子を持っていることが明らかとなりました。この結果は、APOBEC3ファミリー遺伝子とレトロウイルスが、ほ乳類の進化の過程において、進化的な軍拡競争を繰り広げ、共進化してきたことを強く示唆するものです。

用語解説:
(注1)APOBEC3遺伝子
Apolipoprotein B mRNA editing enzyme, catalytic polypeptide-like 3の略。核酸のシトシンのアミノ基を脱アミノ化し、ウラシルへと転換する酵素。レトロウイルスの複製の逆転写過程において合成されるマイナス鎖(ナンセンス鎖)のウイルスゲノム中のシトシンをウラシルに変異させることにより、プラス鎖(センス鎖)のウイルスゲノムにグアニンからアデニンへの変異を蓄積させる。これにより、ウイルス遺伝子にミスセンス変異、ナンセンス変異が挿入され、ウイルス遺伝子の機能が失われることにより、ウイルス感染を阻害する遺伝子として知られている。ヒトは7つのAPOBEC3ファミリー遺伝子をコードしているが、マウスは1つのAPOBEC3遺伝子のみをコードしており、コアラなどの有袋類は、APOBEC3遺伝子を持っていないことが知られていた。

(注2)内在性レトロウイルス(endogenous retrovirus; ERV)
ほ乳類のゲノムに組み込まれた、過去のレトロウイルス感染の痕跡。生殖細胞に感染し、ゲノムに組み込まれた(「内在化」した)レトロウイルスは、ゲノムの一部として子孫に引き継がれる。内在性レトロウイルスは、古代のレトロウイルスの「分子化石」と捉えることができる。このため、内在性レトロウイルスを研究することで、宿主の祖先にかつてどの様なレトロウイルスが感染していたか、あるいは宿主の祖先とウイルスがどの様に進化的攻防を繰り広げてきたのかを解明するための貴重な手掛かりを得ることができる。

論文情報

伊東 潤平, Robert J. Gifford, 佐藤 佳*, "Retroviruses drive the rapid evolution of mammalian APOBEC3 genes," Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America: 2019年12月17日, doi:10.1073/pnas.1914183116.
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