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新たなシステムによる絵図画像の公開開始 ―都城市・東京大学史料編纂所の連携促進による成果の拡大― 記者発表

掲載日:2023年9月20日

報告者

【東京大学史料編纂所】
  本郷 恵子 (所長)
  黒嶋 敏  (准教授)
  山田 太造 (准教授)
  畑山 周平 (助教)
  中村 覚  (助教)
【都城市】
  池田 宜永 (都城市長)
  児玉 晴男 (都城市教育長)
  山下 真一 (都城島津邸 館長)
  中嶋 愛  (都城島津邸 主任主事)
  松田 佳奈 (都城島津邸 主任主事)

 

発表の概要

 宮崎県都城市の施設である都城島津邸が所蔵する「琉球并諸島図」(りゅうきゅうならびにしょとうず、図1)について、東京大学史料編纂所は、新たに構築したデジタルアーカイブによるWeb公開を開始します。都城市と史料編纂所とは、2021年7月に覚書を締結して連携を強化し、都城島津邸所蔵史料の調査を進めてきました。この「琉球并諸島図」は、琉球などの南西諸島を描いた貴重な絵図ですが、大型絵図で取り扱いが難しく、分析は進んでいませんでした。
 そこで史料編纂所では、新たにデジタルアーカイブを構築しました。これは、単に画像のみを閲覧する従来の方法とは異なり、画像データを構造化することで各種機能を盛り込み、書かれた文字の検索、地名から現代地図へのリンクなどといった操作が可能になります。
 この新しい画像公開方法は、史料編纂所が近年導入しているもので、これによって自治体の所蔵史料を公開するのは初めての試みです。利便性が高くスマートフォンなどでも操作できるため、一般の方や学校教育の場などにも絵図に接する機会を増やすことにつながり、大学と地域との連携、および研究成果の社会還元として大きな意義を持つものといえます。

図1:「琉球并諸島図」(都城島津邸所蔵、部分)
 
 

発表内容

 〈研究の背景〉
 都城市の施設である都城島津邸には、江戸時代に当地に本拠を置いた都城島津家(薩摩藩主島津家の分家)の関係史料が所蔵されています。また史料編纂所は、薩摩藩主の伝えてきた「島津家文書」(国宝)を所蔵していることから島津氏に関する史料調査を進めており、都城島津邸の所蔵史料についても調査を続けてきました。さらに2021年7月、都城市と史料編纂所は覚書を締結して双方の連携強化を図るとともに、都城島津邸の所蔵史料の画像を史料編纂所の「Hi-CAT Plus」(ハイキャットプラス)というデジタルアーカイブズから公開しています。
 この連携をもとに、今回、新たなシステムによる画像公開を開始するのが、都城島津邸所蔵の「琉球并諸島図」という絵図です。これは、縦77cm、横514cmという大型の絵図で、南西諸島の口之島から始まり、琉球国の版図とされた与那国島までの広い範囲の島々を描いています。絵図の正確な製作年代は不明ですが、記されている石高は1635年以降の数字であり、一方で地名には1666年以降に新設された間切(まぎり、琉球の広域行政区画)がないことから、1635年から1666年の間に作られた絵図を写したものと考えられます。同様の構図で描いた絵図は他にもありますが、そのなかで都城島津邸所蔵の絵図がもっともサイズが大きく、他の絵図よりも古い情報を残していると考えられることから、貴重な絵図として注目を集めていました。
 しかし、大型絵図は取り扱いが難しく、スペースの問題から展示できる場所も限られるため、「琉球并諸島図」の分析は十分に進んでいませんでした。史料編纂所では2019 年に、都城島津邸の協力のもとで「琉球并諸島図」の高精細画像での撮影を行いましたが、16コマの分割画像であるために絵図の全体像が見えにくく、また、くずし字や独特の地形表現などもあり、絵図を「読む」ためのツールとしては活用しにくいという課題が残りました(図2)。

図2:史料編纂所「Hi-CAT Plus」での表示例

高精細画像を閲覧することができるが、分割画像だけでは絵図の全体像をつかみにくかった。
 


 〈研究の内容〉
 そこで史料編纂所では、新たに「都城島津邸所蔵「琉球并諸島図」デジタルアーカイブ」を構築し、高精細画像をWeb上で自在に操作・閲覧できる方法で公開を開始します。このシステムでは、画像へのデータ付与と構造化の研究をもとに、書き込まれた文字や地名の緯度・経度などの情報を画像に紐づけています。これにより、書き込まれた文字のテキスト検索(図3)や、絵図の上から記された文字の解読(図4)ができるようになり、絵図の地名と現代の地名とのリンクも可能になるなど、さまざまな機能も搭載しました。

図3:「都城島津邸所蔵「琉球并諸島図」デジタルアーカイブ」の表示画面[1]
地名「亀津村」を検索すると、絵図の該当部分が表示される。



図4:「都城島津邸所蔵「琉球并諸島図」デジタルアーカイブ」の表示画面[2]
絵図から「与論島」をクリックすると、該当部分の文字が表示される。


 これは、史料編纂所が近年積極的に取り組んでいる新たな画像公開の方法です。従来のようにWeb上で画像を表示するだけでなく、データ構造化によって各種機能の搭載が可能となり、絵図の分析手法を格段に増やすことができます。とくにこの方法は、大型絵図の分析で有効性を発揮すると考えられることから、史料編纂所では「正保琉球国絵図デジタルアーカイブ」を構築し、2021年12月から公開を開始しています。この「正保琉球国絵図」に記された文字と、「琉球并諸島図」に記されている文字の内容が似ていることは以前から指摘されていましたが、より詳細な比較検討が、今回のデジタルアーカイブ構築によって可能になりました。
 
 〈今後の展望〉
 デジタルアーカイブの構築によって「琉球并諸島図」の研究は新段階に入ったといえます。今後、史料編纂所では絵図の研究を通じて「都城島津邸所蔵「琉球并諸島図」デジタルアーカイブ」の機能拡充を図ります。
 また、この方法による画像公開は、これまでは史料編纂所の所蔵史料を対象にしていましたが、今回は初めて、自治体が所蔵する史料を対象にしています。全国に先駆けて都城市に存在する絵図が対象となった背景には、絵図が持つ史料的な意義の高さもさることながら、これまでに培ってきた都城市と史料編纂所との緊密な連携関係があります。デジタルアーカイブ内には、都城市域を含む薩摩藩領を描いた「島津家御領内全図」なども関連絵図として搭載されており(図5)、江戸時代の人々が描いたさまざまな絵図を比較することで、それぞれの特徴を探り、地域の歴史を学ぶ手がかりにしていくことが期待されます。大学と地域との連携、および研究成果の社会還元として大きな意義を持つものといえます。
 さらに、こうした利便性の高い公開方法によって、一般の方々や学校教育の場などでも絵図に接する機会を増やすことにつながります。とくに絵図ではハードルになりがちな古いくずし字が簡単に検索できるようになり、現代地図との比較によって、スマートフォンを片手に現地を歩きながら絵図を見るという利用の仕方もできます。より多くの方が、絵図に親しみを持つ契機にしていただければ幸いです。

図5:「島津家御領内全図」(都城島津邸所蔵、部分)の表示画面

関連絵図として、都城周辺地域を含む薩摩藩領を描いた「島津家御領内全図」を搭載。


 〈関連のプレスリリース〉
 「宮崎県都城市との連携により都城島津邸所蔵史料の画像をWeb公開」(2021/08/03)
 「琉球国絵図・倭寇図巻のデジタルアーカイブをHPより公開」(2021/12/07)
 

研究助成

 本研究は、科研費「大型絵図類のデータ構造化と関連史料の連携による南西諸島「海上の道」の復元的研究(課題番号:23H00012)」、JFE21世紀財団アジア歴史研究助成「前近代の那覇港における航路と聖地」(研究代表者・黒嶋敏)、鹿島学術振興財団研究助成「正保琉球国絵図の研究資源化とデジタルアーカイブの構築」(研究代表者・黒嶋敏)の支援により実施されました。  

 

お問い合わせ先

東京大学史料編纂所 IR・広報室
TEL 03-5841-1615
E-mail ir*hi.u-tokyo.ac.jp(*を@に変更して下さい)

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