次のパンデミックでワクチンを「接種する」と答えた人は53.1% 接種意向を左右する条件の多様性を大規模調査で解析 研究成果
- 日本の一般市民28,000人を対象とした大規模アンケート調査を行い、将来、新たなパンデミックが発生した場合のワクチン接種意向と、それに関連する要因を解析しました。
- 新型コロナウイルス感染症と同程度の致死率のパンデミックを想定した場合、ワクチンを「接種する」と回答した人は53.1%でした。新型コロナワクチンを接種した人だけに限っても、35.8%が次のパンデミックではワクチン接種に消極的な意向を示しました。
- 将来のワクチン接種意向は、特定の属性や性格、情報源、そしてワクチンに関する誤情報や陰謀論を信じている人などで低い傾向がみられました。一方、過去の新型コロナワクチン接種後の副反応の有無や程度は、将来の接種意向とは関連していませんでした。
- ワクチン接種を後押しする条件を解析したところ、「無料で接種できること」「臨床試験による科学的な根拠」「医師からの推奨」は幅広い人々で重視されました。一方、政府や専門機関による推奨、国産ワクチンであること、接種の利便性などをどの程度重視するかは人によって大きく異なり、接種意向を高めるためには一律ではなく対象に応じた戦略が重要であることが示されました。

将来のパンデミックにおけるワクチン接種意向と、接種を後押しする条件を大規模データで解析
発表内容
東京大学国際高等研究所新世代感染症センターの濱田将風特任研究員、古瀬祐気教授、千葉大学大学院医学研究院の川崎純菜特任准教授らの研究チームは、日本の一般市民を対象とした大規模アンケート調査の結果を用いて、次のパンデミックが発生した場合にどのくらいの人々がワクチンを接種する意向を持っているか、どのような人で接種意向が低いのか、さらに、どのような条件がワクチン接種を後押しするのかについて明らかにしました。ワクチンは、感染症による重症化や死亡を防ぎ、パンデミックの被害を軽減するうえで重要な公衆衛生対策です。新型コロナウイルス感染症のパンデミックでは、従来にないスピードでワクチンが開発・導入され、日本でも2022年までに人口の8割以上が新型コロナワクチンを接種しました。
一方、以前から課題となっていたワクチン忌避は、新型コロナウイルス感染症の流行を経て、より深刻な問題となっています。次のパンデミックでも、新たに開発されたワクチンを多くの人に迅速に接種することが公衆衛生上重要となる可能性は大きいと考えられますが、新型コロナウイルス感染症パンデミックを経験した現在の人々が、次のパンデミックでワクチンをどの程度受け入れるのか、また、接種をためらう人々に対してどのような条件が接種意向を高めるのかについては、十分にわかっていませんでした。
そこで研究チームは、「日本における新型コロナウイルス感染症問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS)」のデータを用いて解析を行いました。この調査は2024年12月から2025年1月にかけて、15~84歳の28,000人を対象としてオンラインで実施されました。回答の信頼性に関する基準を満たした25,082人のうち、医学的な理由で新型コロナワクチンを接種できなかった人を除いた24,577人を主な解析対象としました。
調査では、「次のパンデミックが発生し、その病気による死亡リスクを50%以上減らすワクチンが開発され、日本政府や世界保健機関(WHO)などによって承認された」と仮定して、そのワクチンを接種するかどうかを尋ねました。まず、新型コロナウイルス感染症と同程度の致死率(感染者のうち0.1~2%が死亡)のパンデミックを想定した場合、53.1%が「絶対に接種する」または「おそらく接種する」と回答しました。日本では新型コロナワクチンの接種率が8割を超えていたことと比較すると、将来のパンデミックに対する現在の接種意向は低い水準にあることが示されました。
さらに、新型コロナワクチンを実際に接種した19,027人のうち、35.8%は、次のパンデミックでは「おそらく接種しない」または「絶対に接種しない」と回答しました。一方、新型コロナワクチンを接種しなかった人の中にも、15.1%は次のパンデミックでは接種する意向を示しました。

図1:新型コロナワクチンの接種歴と、次のパンデミックにおけるワクチン接種意向
また、想定するパンデミックの致死率を高くしたり、ワクチンの効果が長く持続すると仮定したりすると、特に「おそらく接種しない」と回答していた人の一部が接種する方向へ意向を変化させました。この変化は、新型コロナワクチンを接種した経験のある人でより顕著でした。一方で、「絶対に接種しない」と回答した人では、こうした条件を変えても接種意向の変化は限定的でした。
つぎに、どのような人で次のパンデミックにおけるワクチン接種意向が低いのかを統計的に解析しました。その結果、20~40歳代、女性、収入が低い人、教育歴が低い人などで接種意向が低い傾向がみられました。また、ワクチンに関する誤情報や新型コロナウイルス感染症に関する陰謀論を信じていることも、低い接種意向と関連していました。一方、かかりつけ医がいること、感染症に関する知識が多いこと、人との接触が多いことなどは、高い接種意向と関連していました。興味深いことに、新型コロナワクチン接種後に副反応を経験したかどうかや、その副反応の程度は、将来のワクチン接種意向とは関連していませんでした。
心理的・性格的な要因についても、ワクチン接種意向との関連がみられました。幸福度が高い人では将来のパンデミックでワクチンを接種する意向が高い一方、不安感が低い人では接種をためらう傾向がみられました。また、他者や共同体との関係を重視する人では接種意向が高く、反対に、自己の達成や自立を重視する人では接種意向が低い傾向がみられました。
情報源については、政府、医療従事者、専門家、テレビ、新聞などから情報を得ていることが高い接種意向と関連していました。一方、複数の情報源を同時に考慮した解析では、友人、著名人、動画共有サイト、SNSなどから情報を得ていることは低い接種意向と関連していました。ただし、本研究は観察研究であり、これらの情報源が直接ワクチン接種意向を高めたり低下させたりしたことを証明するものではありません。

図2:次のパンデミックにおけるワクチン接種意向と関連する要因
さらに研究チームは、「どのような条件があればワクチンをより接種したいと思うか」について20項目を調べました。検討候補として、臨床試験(治験)、政府・WHO・医師などからの推奨、ワクチンの開発・製造国、ワクチンの種類、予約手続きや接種場所の利便性、費用などを項目に含めました。これら20項目の優先順位のパターンを教師なしクラスタリング解析(注1)によって分類したところ、調査参加者は特徴の異なる8つのグループに分けられました。どのグループでも、「無料で接種できること」と「臨床試験による科学的な根拠」が特に重視されていました。また、医師からの推奨も幅広い人々で重視されました。
その一方で、そのほかの条件についてはグループ間で大きな違いがありました。例えば、接種場所や手続きの利便性を特に重視するグループには比較的若い人が多く含まれていました。また、国産ワクチンを強く重視する一方、公的機関からの推奨をあまり重視しないグループもありました。逆に、専門家や公的機関からの情報を重視し、感染症に関する知識が比較的高く、ワクチン接種意向も高いグループも複数みられ、その一部では家族や知人からの影響があまり大きくないといった特徴もありました。

図3:ワクチン接種意向を高める条件と、その優先順位にもとづくグループ分け
今回の研究によって、次のパンデミックにおける現在のワクチン接種意向は、新型コロナウイルス感染症で実際に達成された接種率と比べて低いことが示されました。また、ワクチン接種をためらう理由や、接種を後押しする条件はすべての人で同じではなく、さまざまな価値観や優先順位が存在することが明らかになりました。
そのため、将来のパンデミックにおいてワクチン接種を促進する際には、単に一つのメッセージを一律に発信するだけではなく、例えば、利便性を重視する人には接種場所や時間を改善する、国産ワクチンを重視する人には開発・製造や品質保証について適切に説明する、また、信頼される情報源が異なる人々にはそれぞれに適した情報発信者を活用するなど、対象に応じた対策が重要になると考えられます。
なお、本研究で得られた53.1%という値は、将来実際にパンデミックが起きた際のワクチン接種率を予測したものではありません。実際の接種行動は、その感染症の重症度、ワクチンの有効性や安全性、その時点で得られる情報や社会状況などによって変化します。本研究の結果は、新型コロナウイルス感染症の流行を経験した後の時点における「次のパンデミックへの備え」や潜在的なワクチン忌避の状況を示すものと位置づけられます。
本研究は、8月20日に国際科学誌「npj Vaccines」(オンライン版)にて公表されました。
発表者
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター濱田 将風 特任研究員
小森園 亮 特任助教
小林 美栄 特任助教
藤田 尚子 特任助教
古瀬 祐気 教授
千葉大学 大学院 医学研究院
川崎 純菜 特任准教授
現所属:大阪大学 微生物病研究所附属バイオインフォマティクスセンター 特任准教授
東京医科大学
町田 征己 准教授
東北大学 大学院 医学系研究科
田淵 貴大 准教授
研究助成
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)先進的研究開発戦略センター(SCARDA)世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群 東京フラッグシップキャンパス(東京大学新世代感染症センター)・長崎シナジーキャンパス(出島特区)」(JP223fa627001、JP223fa627004)の一環として行われました。また、日本学術振興会(JSPS)科学研究費(JP21H04856、JP23K09693、JP25H01079)、JSPS二国間交流事業(120248602)などの支援により実施されました。用語解説
注1)教師なしクラスタリング解析あらかじめグループを決めるのではなく、回答の似ている人同士をデータにもとづいて自動的にまとめ、特徴の異なる集団を見つける統計的な解析手法。本研究では、ワクチン接種を判断するときに20の条件の中でどれを重視するのかというパターンにもとづいて参加者を分類しました。
論文情報
Junna Kawasaki, Masakaze Hamada, Masaki Machida, Ryo Komorizono, Mie Kobayashi-Ishihara, Naoko Fujita, Takahiro Tabuchi & Yuki Furuse, "Vaccine acceptance in a future pandemic after COVID-19 and its decision drivers in Japan," npj Vaccines: 2026年8月20日, doi:10.1038/s41541-026-01561-2.
論文へのリンク (掲載誌
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お問い合わせ先
<研究内容について>
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター
古瀬 祐気(ふるせ ゆうき) 教授
https://www.furuse-lab.info/
<機関窓口>
東京大学 国際高等研究所 新世代感染症センター(広報)
https://www.utopia.u-tokyo.ac.jp/contact

