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新規質量分析法によるがん細胞の極微量タンパク質の糖鎖修飾解明 新たな疾患マーカーの開発促進が期待される

掲載日:2012年9月11日

体を構成するタンパク質に付加する糖鎖には、タンパク質の機能を制御する役割があります。糖鎖に異常があると、様々な病気や病態の変化を引き起こすため、糖鎖の構造やタンパク質との結合部位の解析は非常に重要です。近年、タンパク質を修飾する糖鎖の構造と結合部位を同定する手段としてMALDI質量分析が必要不可欠となっていますが、あらかじめ糖鎖を含むタンパク質断片(糖ペプチド)のみを単離しなければならず、専門技術や大量の試料が必要で、生体材料から得られる微量の試料を調べることは困難でした。

液体マトリックス3AQ/CHCAを用いた新規のMALDI質量分析法 © 周尾卓也
本法では、試料となるタンパク質の消化物(糖鎖が付加された、あるいは未修飾のペプチドを含む)を液体マトリックス3AQ/CHCAの上に載せます。その表面で、試料中の水分が徐々に蒸発すると、水に溶けやすい糖ペプチドは中心部に濃縮され、その周辺部には非修飾ペプチドが残ります。レーザー照射による質量分析から、中心部からは糖ペプチドの、周辺部からは未修飾ペプチドの質量スペクトルがそれぞれ検出されます。

今回、東京大学医科学研究所の周尾卓也博士(GCOEによる特任研究員)と清木元治教授らは、島津製作所の田中耕一フェローらと共同で、新たに開発した手法によりがん細胞の浸潤に必要なタンパク質MT1-MMPの糖鎖解析を行いました。液体マトリックス3AQ/CHCAを用いる新規手法では、マトリックス上に直接、糖ペプチドを含む混合物を載せるだけで、その場で糖ペプチドが分離・濃縮されるために、解析が容易になるだけでなく、高感度解析も可能になりました。その結果、MT1-MMPに付加する糖鎖数が一定ではなく、不均一性があることが初めて示されました。また、予想外の部位に糖鎖付加が起こりうることも判明しました。今回用いられた新しい手法は、少ない試料で、正常細胞とがん細胞の糖鎖修飾の変化を簡便に調べ、比較することができることから、今後、新たながんマーカーの発見が期待されます。

プレスリリース [PDF]

論文情報

Takuya Shuo, Naohiko Koshikawa, Daisuke Hoshino, Tomoko Minegishi, Hiroko Ao-Kondo, Masaaki Oyama, Sadanori Sekiya, Shinichi Iwamoto, Koichi Tanaka, Motoharu Seiki,
“Detection of the Heterogeneous O-Glycosylation Profile of MT1-MMP Expressed in Cancer Cells by a Simple MALDI-MS Method”,
PLoS ONE 7(8) (2012) e43751, doi: 10.1371/journal.pone.0043751.
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