東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

ユートピア都市を描いた白黒の絵

書籍名

ユートピア都市の書法 クロード=ニコラ・ルドゥの建築思想

著者名

小澤 京子

判型など

286ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2017年7月

ISBN コード

978-4-588-78609-9

出版社

法政大学出版局

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ユートピア都市の書法

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天球の形をした墓地、球体の住宅、眼の中の劇場、上から見ると男性器の形をしている娼館――そんな建築を18世紀の終わり頃、啓蒙主義と新古典主義とフランス革命の時代に構想した建築家がいた。本書の扱うクロード=ニコラ・ルドゥである。
 
絶対王政の時代に「国王の建築家」として邸館建築や公共建築を手がけてきたルドゥの職業人生は、革命によって暗転し、現実世界では建築に携わることができなくなってしまう。そのとき、彼が自らの半ばで潰えた夢を実現しようとして見出したのが、書物という場であった。彼は建築家としての情熱を、『芸術、慣習、法制との関係の下に考察された建築』と題された著作の執筆に注ぎ込んだ。理想都市に踏み込んだ「一人の旅行者」がその見聞を語るという体裁で、すでに実現された建築物と空想上の建築物の双方が、ちぐはぐで混乱気味の文章と、対照的に端正な図版とによって表現される。そう、この書物こそが、ルドゥにとって建築であり、都市であったのだ。
 
革命期とはまたさまざまな「転回」の起きた時代でもある。一見すると奇矯にも映るルドゥの建築構想は、古典古代や初期近代の系譜――例えば球体の象徴性、大宇宙と小宇宙の対応、造物主としての建築家――を引き継ぎつつ、同時代の諸思潮を反映し、さらにはやがて到来する時代の予兆をもはらむものであった。本書では、ルドゥのこのような性質を、言語と文字 (第一部)、建築空間と身体の管理 (第二部)、都市空間としての書物と、その中でのテクストとイメージの相互関係 (第三部)、建築家の自己表象としての造物主 (デミウルゴス) イメージ (第四部) というそれぞれのテーマに即して明らかにした。
 
18世紀の終わりはまた、建築物の構造により人間の身体や性を管理しようという発想が生まれ、強まっていった時期でもある。ルドゥは「円の中心から発せられる監視の視線による効率的管理」や「青少年を性的な倫理に導くための建築物」について、著作内で語っている。そして、パノプティコン (囚人たちを効率的に管理するための一望監視式監獄) を考案した功利主義者ジェレミー・ベンサム、公娼制度を前提とした共同体を小説『ポルノグラフ』の中で構想したレティフ・ド・ラ・ブルトンヌ、そして性的調教のための建築物の構造に偏執的なまでのこだわりを見せたマルキ・ド・サドといった人物たちは、正しくルドゥの同時代人であった。
 
ルドゥが創造したのは、建築や都市、あるいは書物に留まらず、いわば一つの「言語」であった。本書は、彼の「都市の書法」を読み解きながら、フランス革命前後の時代の、認識と欲望のありさまを炙り出すものである。

 

(紹介文執筆者: 小澤 京子 / 2020年12月22日)

本の目次

凡例
 
序論  
第一章  本著の概要と意義
第二章  ルドゥ研究の系譜
第三章  ルドゥの生涯、主な建築作品と『建築論』の経
 
第一部  建築は詩のごとく (Ut poesis architectura)
第一章  建築の綴字法
第二章  円と球体
第三章  「語る建築」とアルファベットの結合術
第四章  エンブレムとしての建築
第一部結語 文字と可読性
 
第二部  性的建築と身体管理の契機――醇化・教育・監視
第一章  建築の性的身体
第二章  文筆家ルドゥの陰画としての建築家サド
第三章  教育と労働における性的な契機
第二部結語 連帯と結合
 
第三部  書物の中の / 書物としての理想都市
第一章  イメージとテクストの連関
第二章  入信儀礼から終末へ
第三章  イメージとテクストの協働と裏切り
第三部結語 世界のモデルとしての書物
 
第四部  世界創造主としての建築家
第一章  宇宙の建築家
第二章  宇宙と都市
第三章  眼としての建築 (家)
第四部結語 世界創造の模倣と「建築の起源」の再演
 
結語
 

あとがき
文献一覧
索引

 

関連情報

書評:
白井秀和 評 (『建築史学』71巻、253-267ページ、2018年9月)
https://doi.org/10.24574/jsahj.71.0_253
 
大橋完太郎 評「ユートピア建築家の夢と革命都市」 (『表象』12号、249-252ページ 2018年3月)
https://www.repre.org/publications/journal/12_1/
 
多賀茂 評「ルドゥのたぐいまれな想像力に真正面から取り組む」 (『図書新聞』3341号、2018年3月2日)
http://www.toshoshimbun.com/books_newspaper/shinbun_list.php?shinbunno=3341
 
後藤武 新刊紹介 (表象文化論学会ニューズレター『REPRE』32号 2018年2月)
https://www.repre.org/repre/vol32/books/sole-author/ozawa/
 
谷川渥「2017年読書アンケート」 (『みすず』no.667、2018年1-2月合併号、59ページ)
https://www.msz.co.jp/book/magazine/201802/
 
特集ブック・レビュー2018 シークエンシャルな建築経験と (しての) テクスト (10+1website 2018年1月)
https://www.10plus1.jp/monthly/2018/01/issue-08.php
 
公開対談:
「歴史のイマジナリーラインズ―鈴木了二氏・小澤京子氏」 (早稲田大学 2017年4月21日)
http://www.arch.waseda.ac.jp/wp/2464/