東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙の中央に赤から青へのグラデーション

書籍名

変貌するミュージアムコミュニケーション 来館者と展示空間をめぐるメディア論的想像力

著者名

光岡 寿郎

判型など

357ページ

言語

日本語

発行年月日

2017年6月

ISBN コード

978-4-7967-0365-9

出版社

せりか書房

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変貌するミュージアムコミュニケーション

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ミュージアムを訪れる人々がそこで「何を」しているのかと問われたら、どう答えるだろうか。「作品の鑑賞」「展示物を通した学習」、それとも「余暇活動」だろうか。恐らく、これらの回答は全て正しく、全て間違っている。なぜなら、ミュージアムとは不特定多数の人々が集い、それぞれの関心に応じて意味を紡ぎだす場だからだ。ところが、これまで来館者の行動は、基本的には美学、美術史を中心とした「鑑賞」概念と、教育学、とりわけ教育心理学よりの「学習」概念というレンズを通して分析されてきた。ところが、来館者は鑑賞もすれば学習もする、そして時に同一の来館者ですら、観光客の目線で作品を楽しむのであり、そのような多様で移り気なミュージアムと来館者の間で意味が生じていく過程を、メディア研究の視点から理解することを本書では試みた。
 
このミュージアムと来館者の間での意味生成の過程を、1990年代にイギリスのミュージアム研究 (museum studies) で共有されていく「ミュージアムコミュニケーション」という概念を手がかりに、その内実がいかに理解されてきたのかを歴史的に再構成した。具体的には、1900年 から2010年にいたるまでのイギリス、アメリカの主要なミュージアム雑誌を対象に、キュレーターや展示デザイナー、そしてミュージアム研究者といったミュージアムの専門家にとって、同時代のミュージアムにおける「コミュニケーション」概念が、いかなる意味で了解されてきたのかを描いた。この過程から明らかになったのは、ミュージアムでの来館者の意味生成の過程は、ミュージアム単体ではなく、自身もその網の目に位置づけられる同時代のメディア環境の影響下にあり、同様に社会心理学、記号論、カルチュラル・スタディーズといった同時代の支配的な理論枠組みを背景に把握が図られてきたという事実である。
 
そのうえで、本書では1990年代にカルチュラル・スタディーズの影響下に導入された能動的観衆論 (active audience theory) に基づくミュージアムコミュニケーション概念を英語圏におけるその到達点としたが、一方でその不備も指摘した。なぜなら、テレビ視聴者が番組を「テキスト的」に理解することを前提とした能動的観衆論では、コミュニケーションモデルはマスメディアに近似していても、その実装が空間性に依拠したミュージアムへの適用には限界があったからである。そこで本書では、ミュージアムが既存のマスメディアとは異なり、それぞれ固有の構造を持つメディアが自身のナラティブを維持しながら、なおかつ、物理的に構造化されることで空間的に総体的なナラティブを生成するメディアであることを指摘し、この性質を「メディアコンプレックス (media complex)」という認識枠組みとして抽出した。このようなミュージアムコミュニケーションの分析というミュージアム研究における新たな知見に加えて、ミュージアムをフィールドとすることでメディア研究における空間性への問いの重要性を見出したことが、本書を特徴づけている。
 

(紹介文執筆者: 光岡 寿郎 / 2020年11月26日)

本の目次

はじめに
第一章  「来館者」から「ミュージアムコミュニケーション」へ
第二章  ミュージアムという実験室
第三章  ミュージアムをめぐるメディア論的想像力
第四章  ミュージアムコミュニケーション概念の規格化
第五章  ミュージアムコミュニケーション概念のメディア論的転回
第六章  双方向化するミュージアムコミュニケーション
第七章  メディアコンプレックスとしてのミュージアム
第八章  方法としてのミュージアムコミュニケーション
あとがき
引用参照文献
人名索引 / 事項索引
 

関連情報

著者インタビュー:
変貌するミュージアムコミュニケーション 光岡先生に聞く (1) (せりか書房ブログ 2017年7月4日)
https://ameblo.jp/sericashobo/entry-12289496006.html
 
変貌するミュージアムコミュニケーション 光岡先生に聞く (2) (せりか書房ブログ 2017年6月5日)
https://ameblo.jp/sericashobo/entry-12290121154.html

書評、および書評論文:
植田憲司 評 (『文化資源学論集』第17号 2019年6月)
http://bunkashigen.jp/journal/j017.html
 
潘 夢斐 (東京大学大学院学際情報学府博士課程) 評 『言語的、学術的翻訳を通して見出された「博物館学」の未来』 (『年報カルチュラル・スタディーズ』第6号 2018年)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arcs/6/0/6_198/_pdf
 
石井拓洋 評 (『図書新聞』3330号  2017年12月9日)
http://toshoshimbun.jp/books_newspaper/week_description.php?shinbunno=3330&syosekino=10981
http://www.iiitak.com/review/2017-08-31_Mitsuoka_Review.pdf
 
伊藤亜紗 (東京工業大学准教授) 評 (読売新聞  2017年7月16日朝刊)
 
書籍紹介:
変貌するミュージアムコミュニケーション (せりか書房ブログ 2017年6月5日)
https://ameblo.jp/sericashobo/entry-12281008602.html