東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙にコンドルセの自画像

書籍名

コンドルセと〈光〉の世紀 科学から政治へ

著者名

永見 瑞木

判型など

308ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2018年1月26日

ISBN コード

9784560095966

出版社

白水社

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

コンドルセと〈光〉の世紀

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18世紀後半のフランスでは、社会経済や国際環境が変化するなか、それまでの身分制秩序を支えてきた制度の抱える様々な問題が明らかとなってきました。こうした時代に数学者、思想家、政治家として多彩な活躍をしたのが、本書の取り上げるコンドルセという人物です。これまでコンドルセは公教育や進歩観念の主唱者として、あるいは革命によって前途を断たれた不運な哲学者として知られてきました。また近年では社会科学の創成に関わる人物としても関心を集めています。これに対して本書は、コンドルセの新しい社会に向けた政治秩序構想に注目し、その全体像を、政治思想の伝統や時代状況など、多角的な視点から明らかにしようとしたものです。
 
最初に、コンドルセの学問的背景や一貫した問題関心の形成について論じています (第一章)。数学者として出発したコンドルセは、ダランベールやヴォルテール、テュルゴといった同時代の知識人たちと親交を深め、司法や行政の改革に自らも関わるなかで、科学の世界から政治の領域へと関心を拡げていきます。彼は人間の可謬性や社会の不確実性を常に意識する一方で、過度な懐疑的態度は退け、不確実な世界において人間が判断し、行動する指針となる確率論に期待を寄せます。こうした視点は、社会の多数の人々の知性を結集し、修正を積み重ねながら漸進的に進める改革の姿勢にもつながっていきます。またコンドルセは、イギリスから独立して新たに国家建設を進める同時代のアメリカからも、多大なインスピレーションを受けました (第二章)。
 
そしてアメリカ社会とフランス社会のおかれた歴史的条件や状況の違いも冷静に見つめながら、フランス王政の改革構想として示されたのが地方議会論です。そこでは身分区別を排した、平等な代表制の原理に基づく諸議会から段階的な国民議会の設立までが展望されています (第三章)。
 
やがて時代は急転し、全国三部会の開催から革命の時代に突入します。そこでそれまでの構想を生かしながら、新たな共和国の構想が憲法草案などを通じて示されました (第四章)。その最大の特色は、市民の異議申し立ての声や制度改善の仕組みを随所に取り入れることで、反省的な問い直しに開かれた制度、流動的な秩序像を示した点にあります。
 
コンドルセの生きた時代は今から二百年以上も前ですが、彼の向き合った問題、投げかけた問いは、現代のデモクラシーのあり方をめぐる根源的な問題に対しても、決して色褪せることはなく、考えるための多くの示唆を与えてくれることでしょう。
 

(紹介文執筆者: 永見 瑞木 / 2020年9月3日)

本の目次

序章 
一 デモクラシーの可能性を求めて
二 コンドルセの生涯
三 受容史・先行研究
四 本書の構成

第一章 コンドルセの知的世界——学問と政治
第一節 科学の視点
一 知の発展と普及への情熱
二 自然科学と精神科学
三 確率論への期待
第二節 司法への関心
第三節 政治の経験
一 商業の自由
二 出版の自由

第二章 コンドルセとアメリカの経験
第一節 アメリカへの眼差し
第二節 テュルゴのアメリカ観

第三節 『アメリカ革命のヨーロッパに対する影響について』
一 基本的視点——「公共の幸福」
二 自然権、意見の自由、完成能力
三 アメリカ革命と国際平和
四 アメリカ革命と交易
第四節 連合規約から連邦憲法へ
一 連邦憲法批判
二 アメリカ革命とフランス革命
第五節 コンドルセのフランクリン像
一 「教育者」フランクリン
二 フランクリンと建国の政治

第三章 新しい秩序構想——地方議会から国民議会へ
第一節 地方議会の設置の試み
第二節 「代表民主政」の構想
一 二院制立法府への批判
二 一院制立法府と権力の制限
三 一院制立法府の諸利点
第三節 地方議会構想
一 基本的視点
二 市民権について
三 地方議会の階層秩序と構成
四 身分的区別への批判
五 選出方法
六 国民議会への展望
七 地方議会の役割と公教育
第四節 政治状況の変化

第四章 革命の動乱と共和国
第一節 革命期の活動と諸課題
第二節 自由な国制の条件
一 権利の宣言
二 憲法改正のための特別議会
第三節 共和政について
第四節 憲法の構想——共和国の実現に向けて
一 『自由な国民における政治権力の性質について』
二 憲法の構想

終章

あとがき
文献

索引
 

関連情報

著者インタビュー:
著者に会いたい「知によって権力を日々問い直す 永見瑞木さん「コンドルセと〈光〉の世紀 科学から政治へ」 (朝日新聞朝刊 2018年3月18日)
https://book.asahi.com/article/11582873
 
書評:
安藤裕介 評 (『政治思想研究』第19号、376p 2019年
http://www.jcspt.jp/publications/jjpt/jjpt019_2019.pdf
 
隠岐さや香 評 「逆転の発想による、新たなコンドルセ像」 (『ふらんす』(白水社) 2018年6月号)
https://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/670
 
山本光久 評 (『週刊読書人』2018 年5 月4 日)
 
坂井豊貴 (経済学者・慶應大教授) 評 (読売新聞朝刊 2018年3月11日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20180312-OYT8T50115/
 
セミナー:
IGSセミナー「コンドルセの政治社会像と女性への視点」 (お茶の水女子大学ジェンダー研究所 2020年2月14日)
http://www2.igs.ocha.ac.jp/events/2020/01/0214/
 
「思想史と社会科学-コンドルセ研究の最前線」 (早稲田大学先端社会科学研究所 2019年11月22日)
https://www.waseda.jp/fsss/iass/news/2019/10/05/854/