東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

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書籍名

貿易自由化と規制権限 WTO法における均衡点

著者名

邵 洪範

判型など

372ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年4月19日

ISBN コード

978-4-13-036152-1

出版社

東京大学出版会

出版社URL

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貿易自由化と規制権限

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WTO法は貿易自由化を促進することを主たる目的とし、無差別原則、数量制限の一般的廃止原則、及び関税譲許の義務を含む貿易自由化原則を定めている。WTO加盟国は国内の様々な社会的利益又は価値を達成・実現するために国内規制を実施する場合があるが、加盟国が主権の一部として行使する国内規制が差別的な又は貿易制限的な効果をもたらす場合には、国内規制を採用する加盟国の規制権限とWTO法の貿易自由化原則との抵触/調整が問題になる。
 
本書は以上の問題を貿易自由化の原則と加盟国の規制権限との間における「均衡点」を探求する問題として把握し、WTO法がどのように「均衡点」を見出してきたのかを論じるものである。そのために本書は、第1に、関税及び貿易に関する一般協定 (ガット)、貿易の技術的障害に関する協定(TBT協定)、及び衛生植物検疫措置の適用に関する協定 (SPS協定) を取り上げ、WTOの紛争解決機関 (パネル及び上級委員会) の解釈動向を検討することにより、上記「均衡点」が3つの協定の枠内でどのように具現されているかを明らかにした。第2に、紛争解決機関が3つの協定の相互参照に基づく解釈を展開していることに注目した。特に「均衡点」が3つの協定間で収斂しつつあることを確認した上で、収斂の現象が有する意義を評価した。第3に、紛争解決機関が用いる審査基準の法理に焦点を当てて、適切な審査基準のあり方を考察した。以上の検討を踏まえて本書は、貿易自由化原則と加盟国の規制権限との間における適切な「均衡点」のあり方を提示し、現状を評価している。
 
本書は、広範囲に収集された判例を徹底的に分析し、判例の発展動向を踏まえた実証的な議論を展開している。時系列に沿った判例法の分析によって見出される傾向性は、国内規制権限に関するWTO法の法理の現状を評価し、かつ今後の展望を提示するための有用な示唆を提供する。さらに、ガット、TBT協定、及びSPS協定のそれぞれの規範構造に焦点を当てて加盟国の規制権限の問題を論じてきた従来の研究とは違い、本書の研究は、3つの協定の解釈が互いに影響し合う動態的な様相に注目している。このようなアプローチは、個別協定の単位ではなく、協定間の調和的な解釈というより広い文脈に照らして、「均衡点」を探求するという斬新な視点を提供する。
 
WTO法は国際経済法の法理の形成を牽引してきた主要な規範体系であり、加盟国に保障されるべき規制権限に関するWTO法の研究は、WTO法以外の国際法の分野に対しても分野横断的な研究材料として、有用な着眼点を提供しうると思われる。本書を、国際 (経済) 法を研究する学生、国際 (経済) 法の学者、国内規制をまさに実施する政策関係者、そして一般の方々に読んで頂ければ幸いである。本書が、国家主権の保障に関する国際法上の争点をより広い議論の場へと導く学術的な架け橋となることを期待したい。
 

(紹介文執筆者: 邵 洪範 / 2020年11月9日)

本の目次

はしがき
第1章 貿易自由化と規制権限−−本書の枠組み
第2章 ガットにおける国内規制権限
第3章 TBT協定における国内規制権限
第4章 SPS協定における国内規制権限
第5章 ガット、TBT協定及びSPS協定の関係
第6章 ガット、TBT協定及びSPS協定の相互参照−−国内規制権限への含意
第7章 WTO法における審査基準
第8章 結論――規制権限の現在と課題