東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

祭りの写真

書籍名

コモンズとしての都市祭礼 長浜曳山祭の都市社会学

著者名

武田 俊輔

判型など

332ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年4月8日

ISBN コード

9784788516298

出版社

新曜社

出版社URL

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コモンズとしての都市祭礼

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本書は滋賀県長浜市の長浜曳山祭という都市祭礼を手がかりとして、城下町・商家町として近世以来の地縁組織を継承してきた地方都市の社会構造を描き出した研究である。戦後日本の都市社会学においてこうした都市をめぐる理論構築は不十分であった。それは都市社会学という分野が、戦後の都市化と人口の流動化を背景に、近代的な市民意識に基づく人々の連帯の可能性を示すという問題意識から出発し、近世以来の共同性をやがて変質・消失するものとしかみなしてこなかったためである。しかし現代においても上記のような地方都市では、伝統的な地縁組織は変容しつつも脈々と受け継がれている。
 
本書はそうした戦後の都市社会学の展開の中で忘却されてきた、有賀喜左衛門と中野卓の都市社会学の可能性に注目する。年中行事や冠婚葬祭といった中に現れる先祖代々の「家」同士の関係性とその変容を通して、都市の社会構造を描き出そうとした彼らの視角を批判的に継承・刷新し、「もうひとつの都市社会学」を切り開くのが本書の目的である。本書では祭礼を、「家」によって構成される近世以来の地縁組織である「町内」から人手、山車、金銭、技能といった「資源」を調達し、それを用いて人々に「家」や「町内」の威信、興趣、観光資源や文化財としての価値といった「用益」をもたらすしくみ=コモンズとみなし、その分析を通して都市の社会関係を描き出す。
 
祭礼は「町内」を単位として、複数の「町内」がそれぞれの経済力・文化力を競い合う形で行われる。祭礼においては、役職の配分や伝統のあり方をめぐる自己主張を通して、各「家」や「町内」は地域社会における高い威信を獲得しようとする。特に昔から長浜に住み、何世代にもわたって祭礼に資源を投入してきた「家」はその資源に見合う威信を獲得できることを期待する。しかし威信を得られるのは一部の「家」「町内」に限られるため、「家」「町内」間には激しいコンフリクトが発生する。こうしたコンフリクトはコミュニティの崩壊につながるように見えるかもしれないが、むしろコンフリクトを通して祭礼の興趣 (面白さ) という用益が生みだされ、担い手や見物人全てがそれを楽しむことができる。さらにコンフリクトの結果、威信を得られなかった家や町内は、将来の祭礼においてそれを何とかして挽回すべく、次回以降の祭礼に期待する。こうした威信と興趣の配分と将来へのその期待こそが、「町内」の人々が祭礼を継承しようとする理由なのだ。
 
しかしもし必要な資源が不足し祭礼が危機に瀕したとすれば、そうした期待は満たされない。したがって戦後の社会変動のなかで危機に瀕するたび、「町内」の人々は資源を調達すべく地方都市の内外にさまざまなネットワークを広げてきた。「町内」同士で協力し、自営業者間のネットワークを活用し、観光資源や文化財としての用益を配分しつつ経済団体や行政との関係をとり結び、学校と連携する。本書は、かくして「町内」を中心としたさまざまな地方都市の社会関係が構築されていくプロセスを分析することで、戦後日本の地方都市の社会構造を明らかにしている。
 

(紹介文執筆者: 武田 俊輔 / 2020年9月17日)

本の目次

第I部 課題の設定と分析視角
第1章 本書の目的と研究の視角
第2章 都市社会学における「町内」社会研究の不在とその可能性
第3章 本書の分析視角:コモンズとしての都市祭礼
 
第II部 都市祭礼を構成する諸資源・用益と祭礼の伝承メカニズム
第4章 山組における家と世代:祭礼をめぐるコンフリクトとダイナミズム
第5章 山組間における対抗関係の管理と興趣の生産・配分:裸参りを手がかりとして
第6章 シャギリをめぐる山組間の協力と山組組織の再編
第7章 若衆たちの資金調達と社会的ネットワークの活用
第8章 曳山をめぐる共同性と公共性:共有資源としての曳山の管理とその変容
 
第III部 コモンズとしての都市祭礼/地域社会/公共性
第9章 観光・市民の祭り・文化財:公共的用益の活用と祭礼の意味づけの再編成
第10章 本書における知見の整理と結論
 
 

関連情報

受賞歴:
第46回/2020(令和2)年度藤田賞 (公益財団法人 後藤・安田記念東京都市研究所 2020年10月)
https://www.timr.or.jp/research/fujita_award_41to50.html

第13回地域社会学会賞 (個人著書部門) (地域社会学会賞選考委員会 2020年5月26日)
http://jarcs.sakura.ne.jp/main/outline/main/2019_award_list.pdf
 
第5回日本生活学会博士論文賞 (日本生活学会 2019年6月8日)
http://lifology.jp/overview/doctoral_thesis/

自著解説:
【法政の研究ブランド vol.3】伝統ある祭りはいかに今日まで継承されてきたのか ― 8年間のフィールドワーク・参与観察が明らかにしたこと ― (社会学部社会学科 武田 俊輔 教授) (法政大学ホームページ 2021年1月21日)
https://www.hosei.ac.jp/info/article-20210112152421/
 
法政大学の『いま』を伝える: 祭礼から描き出す地方都市社会のダイナミズム 法政フロネシス (社会学部社会学科 武田俊輔教授) (法政大学HOSEI PHRONESIS 2020年9月14日)
http://admin.phronesis.hosei.ac.jp/article/article-20200826170107?fbclid=IwAR3F7P8Zm5f-tlkrbDEFacv0joWlKvE5e1wyI7Df5QbIUFLiU1nqna-_1cA
 
著者インタビュー:
日本生活学会の100人: vol.16 武田俊輔氏「長浜曳山祭の都市社会学ーフィールドワークから見る地方都市社会と祭礼のダイナミズム」 (日本生活学会ウェブサイト 2020年10月31日)
http://lifology.jp/people100/vol16takeda/#more-3355
 
書評:
竹元秀樹 評 (『社会学評論』72巻4号p.572-574 2022年)
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jsr/-char/ja
 
牧野修也 評 (『フォーラム現代社会学』第20号p.93-95 2021年6月8日)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1571135654515684608
https://www.ksac.jp/2021/06/08/%e3%80%8e%e3%83%95%e3%82%a9%e3%83%bc%e3%83%a9%e3%83%a0%e7%8f%be%e4%bb%a3%e7%a4%be%e4%bc%9a%e5%ad%a6%e3%80%8f%e7%ac%ac20%e5%8f%b7%ef%bc%882021%ef%bc%89%e7%9b%ae%e6%ac%a1/
 
田中志敬 評 (『村落社会研究ジャーナル』27巻2号p.47-48 2021年4月25日)
https://doi.org/10.9747/jars.27.2_47
 
俵木悟 評 (『民俗芸能研究』第70号p.97-109 2021年3月)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1571135654449906176
https://www.minzokugeino.com/journal/list/
 
前島訓子 評 (『東海社会学会年報』第12号p.76-79 2020年)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1573668929331606400
https://tokai-ss.com/index.php/2014-09-11-14-56-14/2014-09-11-14-57-11/2-uncategorised/55-annualreview12
 
有末賢 評 (『日本都市社会学会年報』2020巻38号p.166-168 2020年9月)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1570009754567191040
 
山崎翔 評 (『地域社会学会年報』32, p.179-180 2020年5月30日)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1390853133763792128
https://www.toshindo-pub.com/book/91640/
 
阿南透 評 (『日本民俗学』第300号p.233-238 2019年11月30日)
https://cir.nii.ac.jp/crid/1574231879167394816
https://www.fsjnet.jp/periodical/periodical_data/backnumber_281-300.html

書籍紹介:
長浜曳山祭の都市社会学 県立大准教授・武田さんが刊行/滋賀 (毎日新聞 2019年4月14日)
https://mainichi.jp/articles/20190414/ddl/k25/040/266000c