東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

オレンジの表紙

書籍名

戦後日華経済外交史 1950-1978

著者名

許 珩

判型など

318ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年7月12日

ISBN コード

978-4-13-036275-7

出版社

東京大学出版社

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戦後日華経済外交史 1950-1978

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台湾は小さい島でありながら、近代以来、その運命が大国の狭間で翻弄され、東アジア国際秩序変動の前哨地でもあった。本書は第二次世界大戦後、日本帝国秩序が崩壊した背景に、戦勝国の中華民国に返還されるはずだった台湾が、中国大陸における国民党と共産党の内戦、またアジアに拡大した米ソ冷戦によって、「台湾問題」として未解決のまま現在まで残される歴史を振り返るものである。
 
アメリカが台湾をめぐる国際秩序に大きな影響力を持っていたが、アメリカを中心とする研究はアジアの内在の論理を必ずしも説明できるわけではない。一方で、日中関係史は常に台湾を日中の間で「処理」しなければならない問題で、一種の「裏面史」として取り扱われることが多かった。本書はその日米、米中、米台や日中関係に大きく関わるにも関わらず、独自の文脈がある日華・日台関係を注目し、特に従来の政治外交史研究に看過された経済協力の問題を取り上げ、戦後台湾をめぐる国際関係史に新たな視点を与えようとする。
 
具体的に、本書は1950年代から70年代までの、日本政府と中華民国政府間の貿易、資本、また経済領域の国際参加などの方面における協力の実態を明らかにし、さらにその経済協力関係を新しい外交空間として位置付け、外交面においてどのような意味を持つかということにも分析を加えた。
 
一般的な理解では、日華・日台関係は1972年まで主に中国承認問題をめぐる政治外交を軸に展開し、断交以後、外交関係から民間の実務関係へ転換し、日中国交正常化以前の日本と中華人民共和国との関係に適用されていた「政経分離」が入れ替わるかたちで日華・日台関係に適用されるようになったとされる。本書は戦後に展開した日華間の実務関係の形成過程において、中国承認問題と絡みながら、新しい外交空間が漸進的に形成され、断交を経ても存続して現在に至っているのではないかと考えている。すなわち、日華断交によって外交関係から民間の実務関係へと移行したというのではなく、むしろ断交以前に経済協力面で育まれた実務関係による外交空間が、断交以後にも継続して機能したということである。それによって、1972年の日華断交がそれほど画期的なことではないとも指摘できる。本書は台湾をめぐる国際秩序がいかに変容してきたかという課題を多様な視点で捉えていく一歩となることを願って止まない。
 

(紹介文執筆者: 許 珩 / 2020年10月8日)

本の目次

序 章
第1章 敵から「友」へ - 戦後日華関係の樹立過程と経済協力 1950-1956
第2章 岸政権期における日華経済協力―第四次日中民間貿易協定と東南アジア経済開発基金構想をめぐって 1957-1960
第3章 第一次円借款の交渉過程 1960-1965
第4章 佐藤政権期の日華関係と第二次円借款の交渉過程 1966-1972
第5章 アジア地域開発と国府の参加ー東南アジア開発閣僚会議とアジア太平洋協議会を中心に 1965-1972
第6章 日華断交以後の経済協力の継続 1972-1978
終章