東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

黄緑の表紙に魚のイラスト

書籍名

環境ガバナンスとNGOの社会学 生物多様性政策におけるパートナーシップの展開

著者名

藤田 研二郎

判型など

244ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2019年3月30日

ISBN コード

9784779513831

出版社

ナカニシヤ出版

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環境ガバナンスとNGOの社会学

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日本の環境政策では1990年代以降、行政とNGO・NPOをはじめ多様な主体による“パートナーシップ”が推進されています。みなさんも、例えば小中学校の総合学習の授業のなかで、○×川を守る会といった地域の団体が取り組む環境保全活動に参加したり、ニュースで市民団体が行政や企業、はたまた有名人と一緒に地球温暖化対策のキャンペーンを行っている姿をみたりしたことがあるかもしれません。従来の研究では、このパートナーシップを通じて、NGO・NPOや住民・市民が自ら政策をつくり実施するプロセスに参加することが、環境問題の解決策の一つと考えられてきました。
 
ただし、現実の環境問題の解決は本当に進んでいるといえるのでしょうか。たしかに、多様な人たちが連携した取り組みを目にする機会は増えたように感じます。一方で、地球温暖化が進み数多くの生物種が絶滅に向かっている状況は相変わらずです。本書が問題とするのは、このような状況です。すなわち、「従来環境問題の解決策の一つとして考えられてきたパートナーシップが、すでに導入されて久しいにもかかわらず、現実の環境問題解決が進んでいないとすればなぜか」というテーマを、さまざまな角度から検討しています。
 
本書の構成は、次の通りです。まず序章で、パートナーシップにかかわるさまざまな既存の研究をレビューした後、環境行政がパートナーシップを導入した歴史的な背景を、『環境白書』や広報誌などの資料から検証しています (第1章)。この歴史的な検討にもとづき第3~7章では、生物多様性に関する政策がつくられ、実施される過程を対象とした2つの事例研究を行っています。一つは、2000年代に外来生物法の特定外来生物に指定されたことで、取り扱いの規制・駆除がなされるようになったオオクチバス等 (ブラックバス) の問題で、もう一つは、2010年愛知県名古屋市で開催された国際会議、生物多様性条約第10回締約国会議とその後の事例です。両者の政策決定・実施過程では、行政とNGO・NPOをはじめ多様な主体によるパートナーシップが形成されました。
 
これらの検討を通じて終章では、現実の環境問題解決が進んでいない要因をパートナーシップの形成条件の選択性、NGO・NPOに対する「実施体制の丸投げ」という概念でまとめ直し、従来とは異なる問題提起を試みました。そして、これらの問題を回避するための今後の検討課題について論じています。今日パートナーシップが推進される状況は、何も環境領域だけに限りません。本書が単にパートナーシップに期待するだけではない、かといって無用に失望するわけでもない、冷静な議論の一助になればと思います。
 

(紹介文執筆者: 藤田 研二郎 / 2020年11月17日)

本の目次

序章  環境ガバナンスはいかに論じられてきたか:行政とNGO のパートナーシップの理念と実態
 1 パートナーシップをめぐる動向
 2 環境ガバナンス,パートナーシップの理念と実態
 3 本書の問いと構成
 4 NGO・NPO の捉え方とセクターの区分


第1部 環境政策史・分析視角 / 方法: 分析のために

第1章  パートナーシップの環境政策史
 1 市民セクターに向けた環境行政のまなざし
 2 資料と時期区分
 3 協働・市民参加の萌芽期
 4 施策形成期とパートナーシップ
 5 選択的確立期と政策決定への参加
 6 協働・市民参加の意義とは?

第2章  連携形成条件の分析視角
 1 パートナーシップの分析に向けて
 2 環境政策過程論の諸アプローチ
 3 戦略的連携論の分析視角
 4 事例研究の方法


第2部 外来種オオクチバス等の規制・駆除:ローカルな政策提言活動

第3章  NGO-漁業者団体-行政間の連携が形成されるまで
 1 オオクチバス等をめぐる社会的論争
 2 組織フレームの分析枠組
 3 論争過程の概要
 4 第1 期におけるフレームのすれ違い
 5 第2 期におけるフレームの一致
 6 連携はいかにして可能になったか?

第4章  ローカルなNGOの展開と政策実施体制
 1 規制・駆除の政策的成果
 2 ローカルな環境NGOの展開
 3 外来生物法の政策実施体制
 4 不十分な体制の解消に向けて


第3部 生物多様性条約第10 回締約国会議:グローバルな政策提言活動

第5章  NGOのネットワーク組織における連携戦略と運動内的な帰結
 1 締約国会議という政治的機会
 2 運動組織間の連携
 3 NGOネットワーク組織の分析
 4 包摂戦略の帰結

第6章  行政-NGO 間の連携形成をめぐる比較分析
1 日本政府に向けた政策提言
2 比較分析のための分析枠組
3 政策分野ごとの政策提言過程
4 政策分野間の比較分析
5 連携形成条件の選択性

第7章  連携の持続と政策実施体制
1 締約国会議以降の状況
2 質的比較分析によるNGOグループの特徴
3 NGOによる事業展開
4 国連生物多様性の10年の政策実施体制
5 NGO の事業に依存した体制


終章  本書の知見と環境ガバナンスに向けた問題提起
 1 事例研究のまとめ
 2 他者変革性の発揮を阻む選択性
 3 政策実施体制の丸投げ
 4 政策的成果の乏しさと循環構造
 5 今後の課題
 

関連情報

受賞:
第18回日本NPO学会賞受賞作品 優秀賞 (2020年7月)
https://janpora.org/award/
 
書評:
坂本清彦 (龍谷大学准教授) 評 (『農林金融』2019年8月号)
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1908hon.pdf
https://www.nochuri.co.jp/periodical/norin/contents/7656.html