東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い凹凸のある表紙

書籍名

パーリ仏教戒律文献における懲罰儀礼の研究

著者名

青野 道彦

判型など

526ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年3月27日

ISBN コード

9784796303309

出版社

山喜房佛書林

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パーリ仏教戒律文献における懲罰儀礼の研究

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戒律文献とは、仏教における正規の出家者である比丘・比丘尼の生活規範および比丘・比丘尼の共同体であるサンガの運営規則の集成である。これには伝承母体および伝承言語の異なるものが複数存在するが、その中で本書が主たる資料として用いたのは、上座部仏教においてパーリ語で伝承される律蔵とその注釈文献である。
 
その内容は、諸種の禁則、行住坐臥に関する様々な作法、受戒 (入門儀礼)、布薩、安居、自恣、衣食住薬の取得・利用法、懲罰儀礼、紛争調停制度など多岐にわたる。分量も膨大であり、それを総体的に詳述することは困難であるので、本書において筆者は懲罰儀礼に焦点を絞り、その制度を詳述することを試みた。
 
懲罰儀礼とは、出家社会を危機に陥れる重大な違法行為または脱法行為を行った比丘・比丘尼に対して、サンガが成員の総意に基づき執行する処罰行為である。タッジャニヤ・カンマ (苦切羯磨)、ニッサヤ・カンマ (依止羯磨) など9種あり、それらを科された比丘・比丘尼は様々な制約を課され、通常の比丘・比丘尼としての権利が制限される。本書は、この懲罰儀礼について、佐藤密雄やÉdith Nolotによる先行研究を手掛かりに、律蔵および注釈文献の中に散在する関連記述を可能な限り網羅的に取り上げ、その制度の全容を提示したものである。
 
このように一つの制度を掘り下げて考察することに本書の特色があるが、従来、戒律文献の研究において支配的であったのは、戒律文献を史料として扱い、新古層を弁別して考察する方法である。例えば、通時的視点に立ち、戒律文献を考察し、サンガの展開史や戒律文献の形成史を論じることが行われてきた。これにより数多くの研究成果があげられてきたのは確かであるが、そのような研究では捨象されてしまう部分がある。それは発展や変遷の歴史と直接結びつかない制度の詳細である。本書では、そのような部分を掬いとっていくために、戒律文献を史料として位置づけることを暫時停止することにした。
 
これにより、本書は律蔵および注釈文献を制度体系として位置づけ、その解明に専念することが可能になった。一方で、その研究成果は歴史的側面を欠くものとなり、本書は仏教教団の歴史的実像に関心を向ける研究者を満足させるものではないだろう。しかし、仏教教団の実像を理解するためには、戒律文献の制度の解明が先決であると筆者は信じている。
 

(紹介文執筆者: 青野 道彦 / 2022年4月4日)

本の目次

緒言
凡例
 
1.     序論
1.1.    本研究の目的
1.2.    本研究の概要
1.3.    戒律文献の研究方法
1.4.    上座部所伝の戒律文献
 
2.     懲罰的羯磨I類
2.1.    各懲罰的羯磨の語義及び制度的特質
2.2.    懲罰的羯磨I類の総則
2.3.    懲罰的羯磨I類の細則及び諸相
付論1  pabbājaniyakammaによる追放処分の具体的内容
 
3.     懲罰的羯磨II類
3.1.    懲罰的羯磨II類の語義と制度的特質
3.2.    懲罰的羯磨II類の総則1―羯磨執行の手続き
3.3.    懲罰的羯磨II類の総則2―懲罰の内容
3.4.    懲罰的羯磨II類の細則及び諸相
付論2  僧残罪の隠匿の判断基準
付論3  比丘尼の懲罰的羯磨II類
付論4  mānatta, parivāsa, mūlāyapaṭikassanāの執行を命じる表現
付論5  Vinayālaṅkāraṭīkāに見える僧残罪の処断法
付論6  漢訳『善見律毘婆沙』における懲罰的羯磨II類
 
4.     懲罰的羯磨III類
4.1.    tassapāpiyyasikākammaの語義と制度的特質
4.2.    tassapāpiyyasikākammaの総則
4.3.    tassapāpiyyasikākammaの細則及び諸相
 
略号
参照文献
索引