東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙に茶色の模様

書籍名

高齢者のための法的支援 法律相談へのアクセスと専門機関の役割

著者名

山口 絢

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2020年4月20日

ISBN コード

978-4-13-036153-8

出版社

東京大学出版会

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高齢者のための法的支援

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本書は、高齢者の法律相談へのアクセスの現状および課題を整理し、法的課題に直面した高齢者の法律相談へのアクセスを向上させるためのアプローチを検討するものである。
 
周知のとおり、日本における65歳以上の高齢者の比率は30%近くになっている。社会の高齢化に対応して、医療、介護、福祉、雇用など様々な分野で制度の見直しや支援が進んでいる。しかしながら、法的課題についてはどうだろうか。高齢者やその家族は、相続、消費者問題、成年後見など、法的課題に直面する可能性がある。たとえば、自身の遺言書の作成や、家族の相続に際して難しい意思決定が必要になることがある。また、認知症などで判断能力が低下した場合、 (あるいはそれに備えて) 成年後見制度や家族信託を利用するのかどうか。さらに、家族や地域の人々とつながりがなく、経済的な問題や判断能力の問題を抱えている場合、生活ニーズも法的ニーズも他者に認知されない、というケースもある。
 
本書は、このような状況を踏まえ、高齢者が必要とする法的支援を受けるまでの「法律相談へのアクセス」の実態と課題を整理することを目的としている。具体的には、高齢者、法専門家、行政・福祉関係機関という三者を対象に、それぞれ調査を行い、高齢者の法律相談へのアクセスの実態とアクセスとの関連要因、高齢者への支援における課題を多角的に分析した。
 
第1章では、日本の高齢化の現状を整理したうえで、司法アクセス研究および高齢者の法律相談へのアクセスにかかわる先行研究を検討した。
 
第2章では、高齢者のトラブル・問題経験や対応行動,法律相談場所の知識について、インターネット調査およびインタビュー調査の分析結果をもとに検討した。
 
第3章では、弁護士、司法書士を対象にしたインタビュー調査データを分析し、法専門家が認識する高齢者のアクセスとの関連要因および支援課題を検討した。
 
第4章では、日本司法支援センターと連携関係にある行政・福祉関係機関を対象にしたインタビュー調査データを分析し、行政・福祉関係機関が高齢者のアクセスを媒介する場合の利点および課題を考察した。
 
第5章では、第1章から4章の調査を踏まえて高齢者への法的支援アプローチを検討した。
 
その結果、とくにアクセスが困難な高齢者に対しては、行政・福祉関係機関が媒介となって法律相談へアクセスするのが効果的であると考えられること、そのような支援の網の目からも漏れてしまう高齢者に対しては、高齢期以前からの支援アプローチが重要であることを指摘した。
 
本書は、法社会学においてこれまで研究の蓄積がある『司法アクセス』研究のなかでも、高齢という年齢属性に着目したという点が特徴的である。また、高齢者への法的支援課題を実証的アプローチにもとづいて整理したことで、理論的研究が中心であった高齢者法研究にも貢献している。さらに、本書の知見が、高齢者への法的支援にかかわる政策的・実務的議論に貢献することが期待される。
 

 

(紹介文執筆者: 山口 絢 / 2021年5月17日)

本の目次

第1章 なぜ高齢者の法的問題に注目するのか
 第1節 日本の高齢化の現状                   
 第2節 高齢者法の誕生と発展
 第3節 高齢者が直面する法的問題と法的支援の現状
 第4節 高齢者の法的支援にたずさわる関係者
 第5節 先行研究と本書のアプローチ
 第6節 用語の定義
 
第2章 高齢者のトラブル・問題経験と対応行動――高齢者はトラブルや問題にどのように対応したか
 第1節 はじめに
 第2節 調査方法  
 第3節 高齢者によるトラブル・問題経験と対応
 第4節 小括
 
第3章 法専門家の意識と実践――アクセス向上に向けた法専門家の役割
 第1節 はじめに
 第2節 調査方法  
 第3節 高齢者のアクセスと法専門家の役割  
 第4節 考察  
 第5節 小括
 
第4章 行政・福祉関係機関の機能――アクセスを媒介することの意味
 第1節 はじめに
 第2節 調査方法
 第3節 高齢者の問題発見からアクセスまでのプロセスにおける阻害・促進要因
 第4節 情報提供システムによる効果と課題 
 第5節 小括
 
第5章 高齢者の法律相談へのアクセス向上に向けて
 第1節 はじめに
 第2節 法専門家と行政・福祉関係機関の協働によるアクセス向上の可能性
 第3節 高齢者の法的支援をさらに進めるための政策的課題
 第4節 本書の貢献
 第5節 今後の課題