東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

ライト・エメラルドグリーンの表紙

書籍名

ひつじ研究叢書 (言語編) 第184巻 現代日本語の「ハズダ」の研究

著者名

朴 天弘

判型など

296ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2021年3月

ISBN コード

978-4-8234-1083-3

出版社

ひつじ書房

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現代日本語の「ハズダ」の研究

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本書は、現代日本語の文末に現れる「ハズダ」文について、「ハズダ」の様々な用法を統一的に説明することにより、「ハズダ」の基本的な意味・機能を明らかにして「ハズダ」の全体像を1つの機能から説明ができることを示したものである。

筆者が「ハズダ」の研究の最初きっかけとなったのは、反事実条件文に興味を持ったことであった。様々な用法を持っていると同時に、「私は行くはずだった (でも、行けなかった)。」のように反事実的な意味が可能となるのはどうしてなのかを考えると、「ハズダ」は不思議なもの、そのものだった。
 
そこで、ある事態・事柄について話し手の判断を表すとき、話し手自身が持っている知識や情報などが根拠となるのであれば、それには形式ごとに知識や情報と行った根拠をどう運用するかの違いが存在していて、それを明らかにすることで、「ハズダ」の複数の用法も統一的に説明できると思ったのである。
 
本書は、知識を確認するのが「ハズダ」の主な機能であるという仮説に基づいて、大きくは推論過程を含む未確認領域の事態に対する「ハズダ」の意味・機能、推論を伴わない「ハズダ」の意味・機能について、「知識確認」という機能を提案し、例証した。ここで、知識とは、経験的な知識、一般的な知識といった発話時において話し手が知覚した時の個別の情報の断片ではなく、話し手がすでに保持している内在している知識のことを言う。
 
そして、「知識確認」という機能は、話し手が真だと思っている、または真であろうと予想する知識とズレが生じた場合という使用条件の中で行われ、「ハズダ」の知識確認の過程には当該の事態に対する何らかの疑問がないと「ハズダ」は使いにくく、その疑問に対するズレにも度合いは存在するが、その疑問が強く意識されればされるほど「ハズダ」は使いやすくなるのである。なお、「ハズダ」を「知識確認」という観点から、共通の用法を持つと言われてきた「ダロウ」「ニチガイナイ」の形式との比較から「ハズダ」の機能をより明らかに示した。
 
最後では、「ハズダ」の「知識確認」というものが他の言語形式にも存在するものかを検証し、類型論的な観点の一環として「ハズダ」と韓国語の「-(u)l kesita」との対照を行なった。日本語では「ハズダ」と「ダロウ」が、「直接証拠の制限」という制約を受ける知識を基盤とする形式であるのに対して、韓国語には「-(u)l kesita」がその機能を担っていることが確認でき、日本語の場合は、「知識の確認」の「ハズダ」と「判断保留」の「ダロウ」という2つの観点から確信の度合いにも関わってくるのに対して、韓国語の「-(u)l kesita」は文脈によって確信の度合いが決まるということが確認できた。それぞれの共通する意味・機能を持つ形式を言語ごとに比べて、その中心的な機能を理解することで、個別的な研究から離れて言語類型論的な立場から、隣接する東アジア言語の研究において役に立つことが期待できる。今後は「ハズダ」をモダリティ観点からどう位置づけるかという問題について課題としたい。
 

(紹介文執筆者: 朴 天弘 / 2022年3月28日)

本の目次

I 従来の「ハズダ」における明 その可能性と限界

1章 序論
1. 本書の目的
2. 考察対象と方法
3. 本書の構成

2章 「ハズダ」の基本的な理解
1. 「ハズダ」の概観
2. 従来における「ハズダ」の研究 
2.1 意味・用法中心の先行研究と問題点 
2.2 推論の観点からの先行研究と問題点 
2.2.1 推論過程を部分的に受容する先行研究と問題点
2.2.2 推論過程を全面的に受容する先行研究と問題点
3. 従来の行研究における問題点と本書の立場

3章 「ハズダ」と究方法
1. 概要
2. 「ハズダ」と推論との関係
2.1 本書における推論と知識
2.2 推論を伴う場合
2.3 推論を伴わない場合
3. 本書の仮説
3.1 「ハズダ」の使用条件
3.2 「ハズダ」の意味・機能

II 新たな明の提案 知識確認形式として

4章 推論を伴う知識確認形式の「ハズダ」
1. 概要
2. 未確認領域における話し手の疑問
2.1 話し手の知識と現実とのズレが認識される場合:「α」対「α’」
2.2 話し手の知識と現実とのズレが小さく認識される場合:「α」対「α’」不明確
3. まとめ 

5章 推論を伴わない知識確認形式の「ハズダ」
1. 概要
2. 話し手の知識と現実とのズレ:「α」対「α’」(「α’」不明確)
3. 予想・期待と現実とのズレ:「α→β」対「α→¬β」
4. 知識と現実が反事実的な関係にあるズレ:「α」対「¬α」
4.1 条件文と非条件文における用法
4.2 「前提条件依存型」:「ル形+ハズダッタ」
5. まとめ 

6章 知識確認から派生へ
1. 概要
2. 穴埋めとしての知識の確認
3. 可能性の否定 
3.1 「はずが(は)ない」「はずではない」
3.2 可能性の否定から希望へ
4. 語用論的なhedgeとしての使用
5. まとめ

7章 「ハズダ」と他の形式との比較その1 「ダロウ」と「ニチガイナイ」を中心に
1. 概要
2. 「ハズダ」と「ダロウ」との比較 
3. 「ハズダ」と「ニチガイナイ」との比較 
4. まとめ 

8章 「ハズダ」と他の形式との比較その2 「ハズダ」と韓語「-ul kesita」を中心に
1. 概要
2. 「-(u)l kesita」の用法
2.1 話し手の意図を表す用法
2.2 話し手の推測を表す用法
3. 「-(u)l kesita」と「ハズダ」との対照
3.1 研究方法
3.2 用例収集の結果
3.2.1 「ハズダ」と「-(u)l kesita」が置き換えられる場合
3.2.2 「ハズダ」と「-(u)l kesita」が置き換えられない場合
3.3 共通点:話し手の知識を使う形式
3.4 相違点:「知識確認」対「未確認領域への投影」
4. まとめ 

9章 まとめ
1. 本書の要約
2. 「知識確認」というモデルの位置づけと有効性
3. 本書の成果
4. 今後の課題:モダリティ形式としての位置づけ

あとがき
参考文献
用例出典

関連情報

受賞:
第1回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2020年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
書籍紹介動画:
朴天弘 現代日本語の「ハズダ」の研究 (ひつじ書房ホームページ)
https://www.hituzi.co.jp/hituzibooks/1083hazuda_movie20210515.mp4
 
関連記事:
朴 天弘 (帝京大学),宋 天鴻 (関西外国語大学)
日本語の「ハズダ」と中国語の「应该」の中心的機能からの対照研究 (『東アジア日本学研究』第3号 2020年3月)
https://www.east-asia.info/studies/003.pdf