東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

海の上にアメリカやフランスの国旗と船、人の来航

書籍名

トクヴィルと明治思想史 〈デモクラシー〉の発見と忘却

著者名

柳 愛林

判型など

334ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年10月28日

ISBN コード

9784560098653

出版社

白水社

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トクヴィルと明治思想史

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Chers Mesdames et Messieurs au Japon.
 
私はアレクシ・ド・トクヴィル (Alexis de Tocqueville) と申します。1859年に、すでにこの世を去ったフランス人の政治学者です。政治家でもありました。私の名前をご存知の方も、ご存知ない方もいらっしゃると思います。私は友人ギュスターヴ・ド・ボモン (Gustave de Beaumont) と共に1831年アメリカを訪問し、そこでの見聞を基にDe la Démocratie en Amériqueという本を書いて発表しました。この本が評判になり、私はアメリカでもヨーロッパでも有名になりました。もう187年も前の話です。
 
私のこの著作が19世紀の日本でも完訳され、紹介されていたことを『トクヴィルと明治思想史』という本を通じて最近知りました。ジョン・スチュアート・ミル、この人も私の友人ですが、ムッシューミルの『自由論』On Libertyやムッシュールソーの『社会契約論』Du Contrat Socialが日本語に訳され、多くの人が「明治」とかいう時代に読んでいたことはすでに知っていましたが、私の代表作も日本語に訳され、また英語訳でもたくさんの人々に読まれていたとのこと、嬉しいです。
 
ムッシュー福澤諭吉と彼の弟子たちが私の著作を引用した文章は興味深く読みました。私の連邦制と自治の議論を封建制と結びつけて議論を展開したところは特に面白かったです。日本の初代総理大臣のムッシュー伊藤博文も私の本を読んで宗教に関する発言をしていたことには驚きました。宗教の機能に注目した当時の日本人の思考は確かに私のそれと似ている部分があると思います。
 
しかし、明治の多くの日本人も私の議論を正確には理解できなかったようです。まー、De la Démocratie en Amériqueの最初の英訳者ムッシューヘンリ・リーブ (Henry Reeve) も誤解して間違った訳を多くしたので、英訳からの重訳だったムッシュー肥塚龍の『自由原論』にも誤訳が多いのは当然ですね。当時の日本固有の関心や状況ゆえに誤解された箇所があることも良く分かりました。このようなことは、いつの時代にもあるはずです。私の議論だけではなく、人の議論を誤解する人は。でも、まずはたくさん読み、読んだことを基に自分の考えを展開することこそが独創的思想を確立するに大事な過程だと思います。
 
De la Démocratie en Amériqueは出版された1835年から1870年頃まで広く読まれましたが、その以後1940年頃までは本も私の名前もほぼ忘却されていたと言われています。日本でも同様に私が忘却されていた時期がありましたね。私が日本で有名だった期間は他の地域よりも短かったようですが、忘れられた理由は他とそれほど異ならないということ、また、大日本帝国憲法の制定後アメリカモデルが必要なくなったという日本固有の理由があったことも面白かったです。
 
『トクヴィルと明治思想史』を読んだことで、私が187年前に書いた本をもう一度読みたくなりました。また、私に関する面白い研究が最近日本でたくさん出ているようですね。皆さんにもぜひ読んで欲しいです。
 
Juin, 2022 Alexis de Tocqueville
 

(紹介文執筆者: 柳 愛林 / 2022年6月24日)

本の目次

はしがき
 
第I章 平等主義者の政体書?
一 肥塚龍という政治家
  1. 肥塚龍略伝
  2. 肥塚への同時代の評か
二『自由原論』精読―翻訳の基底にあるもの
  1.『自由原論』の底本
  2.『自由原論』の構成
  3.『自由原論』の翻訳
三 肥塚龍とトクヴィル
  1. トクヴィルの登場する肥塚の論説
  2. 政体書になった『デモクラシー』、平等主義者としてのトクヴィル
  3.『自由原論』のその後
 
第II章 現実の日本、鏡のフランス、そして理想のアメリカ
一 宗教
  1. 中村正直とトクヴィル
  2. 明治のキリスト教界とトクヴィル
  3.「Religion」の果たすべき機能
二 女子教育と女性の役割
  1. アメリカの女子教育とトクヴィル
  2.『明六雑誌』の女性観とトクヴィル
  3.「良妻賢母」は日本的価値観であるか
三 自治
  1. 福澤諭吉とトクヴィル
  2.『デモクラシー』と国会開設
四 出版の自由、革命、社会主義
  1. 出版の自由
  2.『デモクラシー』以外の著作の受容
 
第III章 消え去ったトクヴィルの影―忘却と復権
一 忘却に沈んだ『デモクラシー』
  1. 忘却されるトクヴィル
  2. トクヴィルからブライスへ
二 再び浮上する『デモクラシー』
三 終戦直後における『デモクラシー』
  1.『世界』のアメリカ
  2.「平等の国」
  3. 高木八尺とトクヴィル
 
おわりに

関連情報

受賞:
第2回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2021年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
博士 (法学) 特別優秀賞 (東京大学法学政治学研究科 2019年)
 
書評:
犬塚元 評「読み替えと継承のダイナミズム」 (朝日新聞 2022年1月8日)
https://book.asahi.com/article/14517420
 
中沢孝夫 評「自由と平等の日本での受容」 (日本経済新聞 2022年1月8日)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD138V80T11C21A2000000/
 
河野有理 評「「政治思想の冒険」のススメ」 (『新潮社Foresight』 2021年12月31日)
https://www.fsight.jp/articles/-/48508
 
書籍紹介:
「じんぶん堂──「維新という革新の時代」と日本版デモクラシーの起源 『トクヴィルと明治思想史』」 (好書好日 2021年11月18日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14482823