東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

夕焼けに浮かぶ木々の影

書籍名

ジャコモ・レオパルディ ロマン主義的自然観と〈無限〉の詩学

著者名

古田 耕史

判型など

358ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2022年3月

ISBN コード

9784861108013

出版社

春風社

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ジャコモ・レオパルディ

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「おお優美な月よ、ぼくは覚えている (……) おまえはあの時も今と同じように、あの森の上に懸かり、すべてを照らし出していた (……) 」(《月に》1820年) 。
 
「 (……) たぶん、もし私に翼があって、雲のうえを飛び、星々を一つひとつ数え、あるいは、まるで雷鳴のように、山の頂から頂へと彷徨いゆくことができたなら、私はもっと幸福だろう、かわいい私の羊たちよ、私はもっと幸福だろう、純白の月よ」(《アジアの彷徨える羊飼いの夜の歌》1830年) 。
 
“月を歌う詩人”レオパルディ (Giacomo Leopardi, 1798-1897) の名を耳にしたことはあるでしょうか。

ショペンハウアーやニーチェなどの哲学者がその悲観的な思想に影響を受けたことが知られ、また日本では夏目漱石『虞美人草』や芥川龍之介『侏儒の言葉』、三島由紀夫『春の雪』などにその名が登場しています。
 
イタリアでは近代最大の詩人とされ、中学・高校では国語の授業で必ず扱うため、知らない者は一人もいないくらいなのですが、日本では彼がどのような詩人であったのか、残念ながらほとんど知られていません。実際、これまでにレオパルディ研究の単行書は昭和初期の1冊のみであり (堤虎男『厭世詩人レオパルディ研究』二松社、1931年、増補版『レオパルディ研究』村松書館、1988年) 、代表2作品の翻訳書にいたっては、ようやく21世紀になってから刊行されたという有様です (詩集『カンティ』と散文作品『オペレッテ・モラーリ』の合冊、脇功・柱本元彦訳、名古屋大学出版会、2006年) 。
 
この本は、そのレオパルディの詩想を探究する試みです。
 
第1部では、彼の詩論と世界観をこれまでのイタリアにおける諸研究で明らかにされていない点にまで踏み込み詳細に検討した上で、さらに両者の相互連関の可能性を論じました。時代の転換点を生きたレオパルディの詩論は、古典主義的でもありロマン主義的でもある。また18世紀前までのいわば常識的考え方であった「調和に満ちた (秩序づけられた) 自然」というオプティミステックな世界観と、「人間を不幸にする自然」というペシミスティックな世界観のあいだで揺れ動き、それが作品に色濃く投影されています。

第2部では、抒情詩集『カンティ』(「歌」という意味です) を中心に、その核となるテーマやモチーフ (「月」も含め) について、語彙・文体や音声の面からも考察しました。とりわけ、1819年の短詩《無限》に代表されるように、彼の創作活動全体を“固定観念”的につらぬく「無限の詩学」を読み解くことが主眼となっています。「無限」への志向といえばドイツ・ロマン主義を思い起こさせますが、レオパルディの「無限の詩学」がどんな意味の広がりと深さをそなえているのか、ぜひ本書を手に取りじっくり味わっていただきたいと思います。
 

(紹介文執筆者: 古田 耕史 / 2022年9月5日)

本の目次

緒言

第1部 詩と自然

序章
 
第1章 詩的霊感 ―― レオパルディの詩論と詩作の方法

1. 初期の古典主義
2. 詩論の変化
3.「一瞥」と「熱狂」の神性
4. 詩的霊感の条件
結論
 
第2章 レオパルディのロマン主義的自然観 ―― スタール夫人との関係を中心に

1. ロマン主義の新しい自然観 ―― 生きた有機体としての自然
2. ドイツ思想とレオパルディの自然認識
3. スタール夫人の著作との出会い
4. レオパルディとスタール夫人の自然哲学
5. 反分析、反解剖
6. 自然と詩人
7. 自然の2つの相貌
結論
 
第3章 レオパルディにおける2つの〈自然〉

1. ペシミズムの拡大
2. 善としての自然観
3. 人間の運命と摂理的な自然
4. 悪としての自然観(『省察集』)
5. 悪としての自然(詩作品)
6. 自然にたいする2つの視点
7. 自死をめぐって
8. アーリマン
結論
 
第4章 詩論と自然観の平行性

1.“ロマン主義論争”への参加
2. 想定される論敵
3. 詩論の修正と自然観
4. 後期の詩論と詩作
結論
 
第2部 〈無限〉の詩学

序章
 
第1章 無限
1.《無限》
1. 1. テクストの読解
1. 2. «vago e indefinito» ――漠としたものへの志向
2.「無限」の標示
3.「無限」に関わる諸概念
3. 1. 遠さ
3. 2. 夜
3. 3. 死
3. 4. 幸福
3. 5. 愛
3. 6. 無
4. 想像世界への越境
4. 1. «vo comparando» ――境界の消失
4. 2. 無感覚状態、エクスタシスの快楽
5. 音と聴覚
5. 1. 詩における聴覚の重要性
5. 2. 音楽と天上の観照
6. 二重の世界――《無限》の意味
結論
 
第2章 追憶
1.《シルヴィアに》と過去の哀惜
2. 二世界説と想起説
3. 経験と記憶
4. 追憶と詩作
5. 追憶・夢と詩的霊感
結論
 
第3章 回帰と永遠
1. 双子のような詩
2.《嵐の後の静けさ》の言語・文体
3.《村の土曜日》の言語・文体
4. 追憶・回帰・永遠
5. レオパルディの詩とニーチェの〈永遠回帰〉
結論 追憶と生への意志
 
第4章 死
1. 死の瞑想
2. 死の永遠性と無限性
3. 死者の視点からの「死」
4. 擬似的な死
結論
 
第5章 愛
1.「真の生」と愛
2.《支配的思考》
3. 愛の永遠性と無限性
4. 愛の作用とその唯一性
結論 愛か死か
 
結語 詩と生の意義
 
補遺:Il sognoを読む
はじめに
1. 眠り
2. 夢
3.「夢」の詩作
4.《夢》における諸テーマ
5. 生と死のコントラスト
おわりに
 
あとがき
文献案内

関連情報

受賞:
第2回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2021年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
関連論文:
レオパルディの《夢》を読む―― 眠り、夢、生と死のドラマ (『早稲田大学イタリア研究所研究紀要』10巻 p. 143-176 2021年)
https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=59160&item_no=1&page_id=13&block_id=21
 
レオパルディにおけるamoreの無限性と唯一性 ――《支配的思考》を中心に (『早稲田大学イタリア研究所研究紀要』9巻 p. 29-59 2020年)
https://waseda.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=48688&item_no=1&page_id=13&block_id=21