東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙

書籍名

新冷戦・新デタントと日本の東アジア外交 大平・鈴木・中曽根政権の対韓協力を中心に

著者名

李 秉哲

判型など

392ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年2月21日

ISBN コード

978-4-13-036286-3

出版社

東京大学出版会

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新冷戦・新デタントと日本の東アジア外交

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1980年代は、東西冷戦のデタントが終わりを告げ、新冷戦が数年間続いた後、冷戦終結が宣言されるなど、国際情勢が大きく動いた時代である。そして、経済大国に成長した日本の世界に対する姿勢と役割が注目された時期でもある。したがって、この時期における日本外交の理解を深めることが求められるが、史料上の制約もあり、研究が十分に進んできたとは言い難い。
 
1980年代前後の日本外交については、主として国際秩序の変動に対処するための方針と行動が論じられてきた。すなわち、緊張緩和に対応して外交の地平を広げようとしたことが、1970年代における日本外交の特徴として挙げられる一方で、新冷戦が続いた1980年代に関しては、アメリカに武器技術を供与することを決定するなど、西側陣営を支えるための積極的な取り組みが注目されてきたのである。こうした説明は基本的に妥当なものであるが、当時の日本が掲げていた独自の目標についても総合的に分析する必要がある。さらに、1980年代の日本外交に関しては、周到な戦略に基づいた中曽根政権の外交がスポットライトを浴びているが、その基盤と背景を理解するためにも、それ以前に展開された外交を含む総合的な考察が求められる。
 
以上を踏まえて、本書は、大平政権及び鈴木政権を経て中曽根政権に至る1979年から1987年にかけての日本の東アジア外交を分析することを目指した。特にその中で、当時の日本がイニシアチブを発揮した一例である韓国に対する政治的・経済的支援の目標及び、その背景・経緯について議論を進めた。また、1970年代以降の国際秩序及び日本外交の変化や各政権の総合的な対応などの検討も試みた。
 
本書の内容から、1980年代における各国間のダイナミックな関係だけでなく、今まで注目されていなかった日本外交の側面が見えてくる。例えば、日本政府は1980年代にも南北朝鮮の平和共存に関心を示し続けていたが、これは西側陣営への協力を強化するという「西側の一員」路線が日本独自の外交を完全に代替したとは言い難い側面があることを示す。そして、多くの先行研究が相違点を強調してきた大平・鈴木政権の外交と中曽根政権の外交の間に、連続性あるいは相互関連性が見て取れる。その例としては、韓国の経済・社会の安定を朝鮮半島、ひいては東アジア地域全体の安定につなげようとする戦略目標が挙げられる。さらに、1990年代以降の東アジア地域における重要イシューである日米同盟協力の強化や南北朝鮮の対話、中韓国交正常化などに向けた日本の外交努力が1980年代にすでに行われていたことも見逃してはならない。
 
最後に、本書が描いた日韓「協力」の手法をめぐる日韓間の「摩擦」や、日米中韓といった多国間の複雑な利害関係は、各国間の相互理解や対話、利害関係の不断な調整がいかに重要であるかを示すものであるといえよう。
 

(紹介文執筆者: 李 秉哲 / 2023年3月10日)

本の目次

序章
一 本書の問題意識
二 先行研究の検討
三 本書の趣旨と方法
四 本書の構成
 
第一章 前史――一九七〇年代における日本の朝鮮半島政策
一 東アジア及び朝鮮半島の安定化の追求
二 対韓国支援――韓国の安定及び南北朝鮮の均衡を求めて
三 南北朝鮮の平和共存体制の模索
四 日朝関係打開の努力――関与政策
五 小括
 
第二章 大平政権期――対米協調に基づく独自性の模索
一 大平政権初期の対韓国支援
二 国際情勢の急変と日本の対応
三 小括
 
第三章 鈴木政権期――方向性の維持と経済協力方針の確立
一 鈴木政権初期の方針
二 米韓の変化――東アジア外交の与件
三 協力の推進――成果と限界
四 小括
 
第四章 中曽根政権期――日本の発言力強化と朝鮮半島問題への取り組み
一 新冷戦・新デタントと中曽根外交
二 朝鮮半島と中曽根外交
三 朝鮮半島の平和構想
四 小括
 
終章
一 新冷戦・新デタント期における対韓支援の意図
二 一九七〇年代における朝鮮半島政策の方向性の維持
三 大平・鈴木・中曽根政権期における一貫性
四 本書の意義

関連情報

受賞:
第3回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2022年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html