東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

黄緑色の表紙

書籍名

日本古代財務行政の研究

著者名

神戸 航介

判型など

396ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年9月15日

ISBN コード

9784642046695

出版社

吉川弘文館

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日本古代財務行政の研究

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本書は、古代日本の財政業務の具体像、およびそれらを形作っていた租税の性格がいかなるものだったかを考察したものである。全体は第一部「日本古代の財政構造」、第二部「日唐賦役令の比較研究」、第三部「平安時代の国家財政と受領」の三部により構成される。第一部所収では、古代国家の中央官衙における経費の運用方法について、律令制における各官衙ごとの料物申請方式や、租税以外の方法による物資調達制度を明らかにし、さらに平安時代の新しい収取制度の成立に対応して、請奏や官符国宛制という料物申請方式へと統合・展開していく過程を述べた。第二部では、2006年に公刊された新出の北宋天聖令を用いて、賦役令の日本と中国の条文比較を行ない、租税免除・力役編成の制度的特徴と日本における適用の実態を明らかにした上で、賦役令全体の継受の様相を論じ、浄御原令の意義など律令制成立史上の問題についても議論した。第三部所収では、10世紀以降の国家財政・地方支配をテーマとして、特に受領と国家の関係に関わる個別の制度をとりあげ、それぞれの専論として4章にわたって論じた。その上で、この時代の中央財政が受領統制を軸に展開され、一定の有効性をもって機能していたことを主張した。
 
古代国家の財政について、律令官司の財務行政を中心に、律令法の日唐比較などを通じて特色を明らかにし、平安時代の財政文書の役割の分析により摂関期の財政も明らかにしたものである。日本古代の財政史は、古くから重厚な研究の蓄積があるテーマであるが、奈良時代・平安時代の実証論文を一連の研究成果としてまとめ、長期的なスパンにわたる制度史として描いた単著は少ない。本書は律令制を導入した7世紀後半から10・11世紀までを通時代的に扱い、広い視野のもとに財政・地方支配を分析した点に独創性がある。
 
本書の最大の特徴として、第一部・第二部において北宋天聖令を用いた日唐律令比較の手法を中心に据えて検討している点があげられる。2006年に全文が公開された北宋天聖令は、その後15年の研究の蓄積により日本古代史研究者の間でも広く認知されるに至ったが、多くの研究は個別条文の比較検討に留まっており、律令全体の継受の様相を考える上で、各篇目を通覧した研究が求められていた。本書所収の論考では、賦役令全体の逐条的検討に軸を置き、中国史料にも十分に目を向けた上での唐令復原及び日唐比較検討を行ない、賦役令という篇目全体の継受の傾向とその意義を論じた点に独創性がある。また、天聖令は中国の研究者によっても検討されているが、本書はそうした中国学界の動向も積極的に参照し、日本古代史研究に還元しようと試みている点にも特徴がある。
 

(紹介文執筆者: 神戸 航介 / 2023年5月8日)

本の目次

序章 本書の課題と構成
 
第一部 日本古代の財政構造
 第一章 律令官衙財政の基本構造
 第二章 摂関期の財政構造
 
第二部 日唐賦役令の比較研究
 第一章 唐賦役令の受容とその歴史的意義
 第二章 律令租税免除制度の研究
 第三章 日唐律令力役編成制度の特質
 
第三部 平安時代の国家財政と受領
 第一章 熟国・亡国概念と摂関期の地方支配
 第二章 平安中後期の民部省勘会
 第三章 当任加挙考―平安時代出挙制度の一側面
 第四章 検交替使の派遣政務
 
終章 本書の成果と展望

関連情報

受賞:
第3回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2022年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html