東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙、青と緑の抽象画

書籍名

国語教育と英語教育をつなぐ 「連携」の歴史、方法、実践

著者名

柾木 貴之

判型など

456ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年4月14日

ISBN コード

978-4-13-056237-9

出版社

東京大学出版会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

国語教育と英語教育をつなぐ

英語版ページ指定

英語ページを見る

2020年から実施されている新学習指導要領では「国語教育と英語教育の連携」が推奨されている。この状況を前に、国語教員と英語教員の両方を経験した上で、「連携」の歴史、方法、実践を論じた。この点が本書最大の特徴である。
 
私は高校生のときから国語も英語も好きだった。大学で何を勉強しようか迷っていたある日、古典の先生が「柾木は国語と英語の両方が好きなのだから、大学では両方勉強しなさい」と助言してくれた。そこで大学では英文学科で学ぶ傍ら、日本文学科の授業を履修し、両教科の教員免許を取得した。
 
大学院では、「国語と英語は別々に教えるよりも、関連づけて教えた方が、言語教育全体で効果を挙げることができるのではないか」という仮説を検証することにした。注目したのは歴史と実践方法である。私が研究を開始した2007年の時点で、「連携」の歴史と実践方法はほとんど明らかになっていなかったからである。
 
歴史については、いつ頃から「国語と英語は連携すべき」という提言が存在したのか知りたいと考え、来る日も来る日も東大総合図書館の書庫で過ごした。その結果、明治時代から連綿と「連携」の提言が存在していることがわかった。
 
同時に、それでも「連携」が実現してこなかった理由も見えてきた。それは「国語と英語は全然違った教科」と認識されていたことである。英語は一から単語・文法・発音を学び、基礎的な運用能力を身につけることに主眼を置く。それに対して国語は主に文学作品を読んで、感性を豊かにし、情緒を育む教科と考える教員が多かったのである。
 
しかし、21世紀に入って状況は変わりつつある。国語では、2003年に実施されたPISA「読解力」調査の結果が2004年末に公開され、日本の順位が8位から14位に低下したことが話題になった。その結果、しだいに実用的な文章を対象とした教科横断的能力が重視されるようになった。
 
一方、英語でも、外国語学習の土台となるのは母語の力であるという認識が広まりつつある。そのきっかけの一つになったのは、2003年に文部科学省が策定した「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」である。この中には「国語力の向上」という章がある。この記述に基づき、国語教育との連携を提唱する論文が現れるようになった。
 
そこで課題となるのは「連携」の実践方法である。この点について論じる上では、現場経験が重要と考えた。そこでまずは高校の英語講師を2年務めた。その中で学習者の母語の重要性を痛感した私は、次に高校の国語講師を8年務めた。
 
このように国語、英語、両方の経験を踏まえ、まとめたのが本書となる。「連携」の実践としては、国語教員と英語教員がチーム・ティーチングに取り組んだ事例や、国語教員が夏目漱石『こころ』の英訳を扱った事例、英語教員が日本語の評論文の読解方法を踏まえ、パラグラフ・リーディングの指導を行った事例などを紹介した上で、その教育効果を検証している。
 
教育とりわけ言語教育は、その国の未来を作る営みである。時代の変化を踏まえ、新しい言葉の学びを創出する必要がある。本書が今後の言語教育の在り方を考える一助となれば幸いである。
 

(紹介文執筆者: 柾木 貴之 / 2023年4月21日)

本の目次

序章 研究の背景・目的・方法

1章 先行研究

2章 「連携」に向けた議論の歴史
1 概説
2 明治期から1950年代――国語教育と英語教育の乖離
3 1960年代から70年代――言語教育という理念の出現
4 1980年代から2000年代――共通の基盤の模索
5 2000年代から現在――実践の登場

3章 「連携」の目的と方法
1 「連携」の目的と意義
2 「連携」の方法

4章 「連携」の実践
1 共通教材と共通活動を定める実践
2 国語教員と英語教員のチーム・ティーチング
3 共通教材・共通活動を定めない実践
4 本章の実践により見えてきたこと――「連携」の現代的位置づけ

5章 総合考察
1 「連携」に向けた議論の歴史
2 「連携」の実践
3 結論
4 今後の課題

参考文献
あとがき

関連情報

受賞:
第3回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2022年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html

書評:
久世恭子 評 (『日本国際教養学会誌』10巻p.201-203 2024年)
https://doi.org/10.57359/jailajournal.10.0_201

山元隆春 評 (『国語科教育』94巻 2023年)
https://doi.org/10.20555/kokugoka.94.0_74
 
大津由紀雄 (関西大学外国語学部客員教授、慶應義塾大学名誉教授) 評 (『英語教育』 2023年8月号)
https://www.taishukan.co.jp/search/g7454.html

大津由紀雄 評 (ことばの教育 2023年4月9日)
https://www.kotoba1.com/post/%E6%9F%BE%E6%9C%A8%E8%B2%B4%E4%B9%8B%E8%91%97%E3%80%8E%E5%9B%BD%E8%AA%9E%E6%95%99%E8%82%B2%E3%81%A8%E8%8B%B1%E8%AA%9E%E6%95%99%E8%82%B2%E3%82%92%E3%81%A4%E3%81%AA%E3%81%90%E3%80%8F