東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

水面の写真

書籍名

隋唐洛陽の都城と水環境

著者名

宇都宮 美生

判型など

368ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2023年6月25日

ISBN コード

9784639029144

出版社

雄山閣

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

隋唐洛陽の都城と水環境

英語版ページ指定

英語ページを見る

中国の都城というと何を思いつくだろうか。日本人の多くは、遣唐使が派遣され、平城京・平安京と同様の構造をしている隋唐の長安を考えるはずである。実は、隋唐時代には洛陽にも首都機能が置かれ、両京制 (二都制) が採られていた。長安と洛陽の二都体制は古くは周まで遡ることができ、中国では政治・軍事の長安、経済・文化の洛陽として周知され、洛陽も重要な都である。ところが、日本では長安に対する関心が強く、世界的に長安城研究が深化していることも相まって、洛陽に対する知識は少なかった。そこに転機が訪れた。1990年代末から2000年代にかけて中国全土で展開された建築ラッシュである。それに伴い洛陽でも活発に考古調査が行われ、新発見が続出した。現在、洛陽研究はこれらの考古学の成果を使った考察の段階に来ている。しかしながら、現時点では、その成果は従来の説を裏付けるか、あるいは構造について新たに考察する程度にとどまっている。本書の著者は建築ラッシュ最中の洛陽でフィールドワークを重ねているうちに、洛陽城の構造が「水」に関与していることに気が付いた。本書は、洛陽を「足」と「目」で調査し、点と点を結んで全体像を明らかにした成果である。
 
隋唐洛陽城が長安城と大きく異なる点は、都城の形が台形で左右対象でないこと、大きな自然河川と大運河を城内に取り込んでいることである。なぜこのような構造になったのか、そして隋煬帝が建設した洛陽城は何故宋代まで長期間の使用に耐えうる都城になりえたのか、本書では水環境に着目して洛陽城の特徴を導き出した。各章が有機的につながり、一貫した理論で全体像が把握できるように構成されている。自然水系と経済的基盤として建設された運河をも内包した総合的な都市水利という視点から、隋唐洛陽城の立地と構造を検証し、煬帝が目指した都城理念と唐高宗・武則天に受け継がれた都城運営を考察することにより、水利史・都城史研究における洛陽城の歴史的意義を明らかにしている。
 
著者の独自な観察力と視点から導き出した洛陽城の仕組みを多くの人にも共有してもらい、本書を皮切りとして日本と中国の古代の都城を「水」というインフラストラクチャーから考えて新たな見解を出してほしいと考えている。それにより都城の比較ができ、さらに当時の人々がどのような概念で生きていたのか、考察する材料を整えてほしいと切望する。
 

(紹介文執筆者: 宇都宮 美生 / 2023年9月1日)

本の目次

序章 隋唐洛陽城の都城史研究の動向と諸問題
 
第一部 隋唐洛陽城をとりまく水環境
 第一章 隋唐洛陽城における河川、運河と水環境
 ――問題の所在
 第二章 隋唐洛陽城の洛水と都城水利
 ――「洛水貫都」構想を中心に
 第三章 隋唐洛陽城の穀水
 ――煬帝の洛陽奠都をめぐって
 第四章 隋唐洛陽城における煬帝の運河建設
 ――通済渠と通遠渠をめぐって
 
第二部 隋唐洛陽城の施設と水利
 第一章 隋唐洛陽城の西苑の四至と水系
 第二章 隋唐洛陽城の西苑の役割と水利
 第三章 隋唐洛陽城の含嘉倉
 ――設置と役割に関する一考察
 第四章 隋唐洛陽城の穀倉
 ――子羅倉、洛口倉、回洛倉および含嘉倉をめぐって
 
終章 洛陽城における水環境の変遷と意義
       
付章 隋唐の水利関係の諸機関について

関連情報

受賞:
第4回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2023年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html

関連論文:
「隋唐洛陽城の西苑の役割と水利」 (『東洋学報』第104巻第1号 pp. 61-96 2022年6月17日)
https://toyo-bunko.repo.nii.ac.jp/records/7653