東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙、紫色のひし形

書籍名

声なきものの声を聴く ランシエールと解放する美学

著者名

鈴木 亘

判型など

336ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2024年4月3日

ISBN コード

978-4-909237-94-1

出版社

堀之内出版

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

声なきものの声を聴く

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副題の示すとおり、本書はフランスの哲学者ジャック・ランシエール (Jacques Rancière, 1940-) の美学・芸術思想をめぐって書かれたものです。「美学」(l’esthéthique) とは一般的には、美や芸術、感性をめぐる哲学的学問を指す観念ですが、本書がランシエールに倣って注意を向けるのは、美学の成立した18世紀ヨーロッパにおいて、どのようなものを芸術とみなし、どのような基準で芸術を判定するか、をめぐる知覚の枠組みが根本から変容した、という事態です。具体的には、これまで芸術を統御していた様々な規則が解体され、あらゆるものが等しく芸術としてみなされるようになった、という歴史観を、ランシエールは提示しています。副題の「解放」とはまずもってそのことを指しています (主に第1章で扱います)。
 
「解放」には政治的含意もあります。ランシエールは上記の事態を「美的革命」とも称しつつ、それを同時期の市民革命と並置しています。すなわち、旧体制のヒエラルキーを解体し、あらゆる身分の人間の自由と平等を謳う革命です。並置しているだけではありません。美学における革命と政治におけるそれは深い次元で結びついてすらいます。どういうことでしょうか。ランシエールによれば、自由と平等の実現はまずもって人間の感性において宣言されたものです。すなわち、あらゆる人間が身分を問わず等しく美的経験を享受でき、そこにおいて自由の感覚を獲得できる、といういわば革命的な宣言を、ランシエールはイマヌエル・カントやフリードリヒ・フォン・シラーの美学に見いだしています (第2、4章で扱います)。これはまた、政治的領域においても芸術的領域においても、これまで不可視とされてきた存在を見えるようにし、場を持たなかった存在に場を与え、言葉を持たないとされてきた存在の声を聴こえるようにする――感性の枠組みを組み替える――営みでもあります。本書タイトルはこのことを表現しています。
 
本書はこうしたランシエールの基本的発想を、ジャン=フランソワ・リオタールやピエール・ブルデューなど、同時代の他の思想との対比において捉え、その発想の独自の立場を浮き彫りにすることを試みました。またそれを通じ、ランシエールのテクストのパフォーマティヴな性格を、つまりテクストそれ自体が感性的枠組みの再編成を促す実践的効果を有していることを明らかにしました。そして本書は、周縁化された存在の解放を促す他の学問領域へと、ランシエールの発想を開くことを目指したものでもあります (そこでは、ランシエールがいくぶん素朴に用いていると思われる「人間」の観念が問い直されもするでしょう)。
 
本書を通じ、読むことそれ自体の政治的意味を感じていただければ幸いです。
 

(紹介文執筆者: 鈴木 亘 / 2024年5月27日)

本の目次

序論
第一章 ランシエールとモダニズム/ポストモダニズム
第二章 シラー『美的教育書簡』を再起動する──《ルドヴィシのユーノー》と「宙吊り」の作用
第三章 崇高から美へ──ランシエールとリオタール
第四章 『哲学者とその貧者たち』の美学思想――ブルデューに抗してカントを擁護する
第五章 詩人の地位変化──ランシエールにおけるマラルメ
第六章 エクリチュールの複数の政治性──フローベール解釈の諸相
第七章 ランシエール、ドゥルーズ、自由間接話法
結論

関連情報

受賞:
第4回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2023年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html

NEW! ワークショップ:
EAAワークショップ: 鈴木亘『声なきものの声を聴く──ランシエールと解放する美学』をめぐってワークショップ「解釈の政治」 (東京大学東アジア藝文書院 2024年7月24日)
https://www.eaa.c.u-tokyo.ac.jp/events/20240724-workshop/

書評:
星野太 評 #artscapeレビュー (artscape 2024年6月27日)
https://artscape.jp/article/15770/

小林成彬 評 (『週間読書人』 2024年6月21日)
https://dokushojin.net/news/600/

研究ノート:
鈴木亘「ランシエールの自由間接話法、そしてドゥルーズ」 (表象文化論学会『REPRE』第42号 2021年6月30日)
https://www.repre.org/repre/vol42/note/wataru/
 
関連論文:
鈴木亘「ランシエール美学におけるマラルメの地位変化──『マラルメ』から『アイステーシス』まで」 (『美学』71巻1号 pp. 61-72 2020年6月)
https://doi.org/10.20631/bigaku.71.1_61
 
鈴木亘「ジャック・ランシエールによる『美的教育書簡』の再解釈──「ルドヴィシのユーノー」と美的中断」 (『シェリング年報』26巻 pp. 92-102 2018年7月)
https://schelling.sakura.ne.jp/Congress.Program/Suzuki.html
https://researchmap.jp/s_waterloo/published_papers/22883067
 
鈴木亘「ジャック・ランシエールの芸術史観と現代芸術への寄与──『感性的なもののパルタージュ』におけるモダニズム/ポストモダニズム批判の検討を中心に」 (『美学』68巻2号 pp. 13-24 2017年12月)
https://doi.org/10.20631/bigaku.68.2_13
 
鈴木亘「ジャック・ランシエールの美学――芸術における「中断」」 (第66回美学会全国大会 若手研究者フォーラム発表報告集 2016年3月)
https://www.bigakukai.jp/wp-content/uploads/2021/10/wakate_papers2015.pdf#page=17
 
パネル発表報告:
研究発表1「虚構の政治、イメージの感性論」〔発表:福尾匠、鈴木亘、報告:畠山宗明〕 (表象文化論学会『REPRE』第29号 2017年3月29日)
https://www.repre.org/repre/vol29/meeting11/panel01/

関連講座:
「美学と”政治”? ジャック・ランシエールから考える」〔講師:鈴木亘〕 (主催:川上幸之助研究室 2023年2月4日)