東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

人々が畑を耕している写真

書籍名

「現代村落」のエスノグラフィ 台湾における「つながり」と村落の再構成

著者名

前野 清太朗

判型など

236ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2024年1月20日

ISBN コード

9784771037793

出版社

晃洋書房

出版社URL

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学内図書館貸出状況(OPAC)

「現代村落」のエスノグラフィ

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現代において村落とはいかなる存在なのでしょう。社会の工業化、労働者の都市移動、移動や通信の技術発達は人々の社会関係を空間的に大きく広げてきました。現代の人々は村落部といえども決して閉じた世界のみに住んではいないはずですが、にもかかわらず多くの社会で非都市部に「コミュニティのようなもの」――「現代村落」の存在が確認されています。本書では、十分に成熟した先進社会である台湾の事例から、このような「現代村落」がどのように形成され、人々に受け止められていったかを追っています。
 
台湾社会において、親族の組織や民俗信仰の儀礼を共に行う集団は、人々の幅広い社会活動を担うユニットとして着目され、長年研究がなされてきました。筆者もこうした集団をフィールドワークによって通じ追いかけてきました。その結果わかったのは、親族も民俗信仰も、現代の人々がそれらに託している役割はもはや異なっているということでした。まず、現代において親族は親密な交流をもつ人々のコンパクトなつながりとして再編され、かつてのような父方の系譜関係に応じて自動的に人々が財産と生産活動を共にするような集団ではなくなっています。また、民俗信仰においては、親族が集団で一体または複数体の神像を祭祀する形態から、集落ごとに廟をつくり、廟を中心に祭祀を行う形態が一般的となっていますが、それらはあくまで儀礼面に限定された人々のつながりに留まっています。
 
親族や民俗信仰に代わって人々をつなぐ単位として前面に出てきたのが、「行政村」でした。興味深いのは現代台湾の「行政村」に与えられている権限は決して大きなものではないことです。自由につかえる予算もなければ、スタッフも村長と事務職員一人しかいません。各地の「行政村」では、村長たちが上部の役場への提案権と陳情を使いこなしながら、表向きの権限以上の補助を「行政村」領域内に引き入れてきました。生産活動の向上のために、あるいは廟での民俗信仰の維持のために住民たちは「行政村」とつながって補助を確保し、よりよい利益誘導のためにシビアな選挙を「行政村」レベルで行ってきました。限りなく行政上の区分けでしかなかった「行政村」が、一定の自治機能を備えた「現代村落」として機能するようになっていったのです。
 
「現代村落」などとはいっても、それは人々の社会活動すべてを覆う存在ではありません。ならばそうした「コミュニティのようなもの」がなぜ必要なのか。日本を含む先進諸国で進められている自治体の広域合併は、限られた予算や人的資源を集中することを可能にします。しかし同時に意思決定の主体を曖昧にしてしまう効果もあります。本書で「現代村落」とよんだ顔の見える人々が意見を交わす小さなユニットは、「自治体」というものの役割と限界を改めて見つめ直させてくれる存在です。
 
以上紹介したものはあくまで簡単なストーリーです。本書で紹介した実際の個別事例では細かな紆余曲折が確認できます。人々の選択の積み重ねが新しい状況を作っていく面白味を、ぜひ実際の書籍内で読んでみていただきたいところです。
 

(紹介文執筆者: 前野 清太朗 / 2024年4月1日)

本の目次

序 章 台湾から村落をみつめ直す
 第1節 台湾村落をみる異 / 同の目線
 第2節 分析のための視点
 第3節 本書の構成と資料 (データ)
 
第1章 事例村にみる台湾村落の社会史
 第1節 大斗村の位置――嘉南平原エリアの非近郊農村
 第2節 水利の外部化と共同誘因の減少
 第3節 「台湾大」の産業構造への組み込み
 第4節 小  括
 
第2章 東アジア村落比較の再検証
 第1節 東アジア村落に対する異 / 同の目線
 第2節 日本・中国村落との比較からみる調査村
 第3節 小  括
 
第3章 「家」を介したつながり
 第1節 台湾漢人村落の「家」
 第2節 住宅をめぐった「家」のつながり
 第3節 「家」の成長から相続へのプロセス
 第4節 人々の移動によるつながりの変化と再編
 第5節 小  括
 
第4章 神々を介したつながり
 第1節 「神々への祭祀」の社会性
 第2節 後壁区における「神々への祭祀」概況
 第3節 大斗村における神々への共同祭祀
 第4節 大廟の出現に伴うつながりの変容
 第5節 包辨の出現
 第6節 小  括
 
第5章 行政を介したつながり
 第1節 制度としての「社区」
 第2節 村落〈内〉からみた地方行政と「社区」関連政策
 第3節 大斗農村文化営造協会の事例分析
 第4節 活動する住民有志からみた「社区」
 第5節 小  括
 
終 章 異 / 同の比較から現代村落論へ

関連情報

受賞:
第4回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2023年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html

書籍紹介:
BOOKS 新刊紹介 (『新建築 住宅特集』456 2024年4月号)
https://japan-architect.co.jp/shop/jutakutokushu/jt-202404/