東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白地に青や緑が薄く入った表紙

書籍名

戦後日本農政と農業者 組織・動員・忠誠

著者名

川口 航史

判型など

224ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2025年3月16日

ISBN コード

978-4-910590-25-7

出版社

吉田書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

戦後日本農政と農業者

英語版ページ指定

英語ページを見る

戦後日本の政治を語るうえで欠かせない政治的なアクターの一つが、自由民主党 (自民党) という政党です。この政党は、社会における様々な集団によって支えられて、長年の間政権を担当してきました。こうした自民党を支持してきた集団の一つとされるのが農業者です。その説明の中で指摘されるのが、日本の農業者は強固に組織化されているということです。なぜこれが重要になるかと言えば、人々が集団をつくって何かを行うのは、簡単ではないとされているからです。皆さんも日常生活のなかで、何か集団で物事を行おうとしたとき、まとまることが難しかった経験はあるのではないでしょうか。本書では、戦後日本の農業者の強固な組織力の起源はどこにあるのかを、農業協同組合 (農協) という農業者組織を事例にして、明らかにしようとしたものです。
 
本書では、戦時中に形成された農業者組織の制度が、戦後の農協グループにどのように継承されたのか、そしてその継承された制度がどのように維持拡大して行ったのか、その過程を分析しています。そこでは、二つの時期と要因に着目しました。一つ目は、終戦直後の農協が成立した時期の、組織制度の継承の過程における、農業者組織と外的なアクター (政府や政党、他の農業者組織など) との関係性です。分析の結果、この時期の農業者組織の超党派性が、組織制度の継承に及ぼした肯定的な影響が示唆されました。一方で、成立することと、それが維持・発展することは別の事象です。この維持・発展の段階で何が起こっていたのか、農協グループと内的なアクターとの関係性を分析しました。すなわち、構成員の組織への忠誠心をどのようにして高めていたのか、という点です。ここで着目した農協グループ側の取り組みは、米の集荷システムや米価政策への対応や、農村女性・兼業農家の取り込みです。この分析からは、経済的な利益以外の要因による組織化にも農協グループが取り組んだことや、その社会的集団としての側面が示唆されました。これらの示唆は、他の政治的な制度を考える際など、より広い文脈へも貢献するところがあると考えられます。
 
以上のようなことを、本書を通じて明らかにしようと試みました。ただし、本書では取り扱えなかったことも多くあります。この書籍紹介を読んでいらっしゃる方の中に、これらの点に取り組まれる方が現れたとしたら、何よりうれしく思います。
 

(紹介文執筆者: 川口 航史 / 2025年10月17日)

本の目次

序論  戦後日本における農業保護と農業者組織
 第1節 戦争と制度の継承
 第2節 議論の概要
 第3節 本書の研究手法
 第4節 本書の構成
 
第1章  戦前・戦時・戦後日本の農業者組織の概観――戦時動員とその継承
 第1節 戦前の農業者組織――農会と産業組合の並立
 第2節 農業経済更生運動と農業会の成立
 第3節 戦後の農業者組織とその維持
 第4節 小括
 
第2章  戦時組織の戦後への継承
 第1節 政府からの独立性と利益団体の政治力――海外との比較
 第2節 終戦直後のGHQの認識
 第3節 GHQと農林官僚の折衝――農業協同組合法の起草・成立
 第4節 農業復興会議の成立――全国農業会と日本農民組合の協調
 第5節 農業協同組合の運営
 第6節 小括
 
第3章  新農業組織設立の試みと失敗――野党・農民組合と農協グループとの関係性
 第1節 第一次農業団体再編成問題――1950年代初頭
 第2節 第二次農業団体再編成問題――1950年代半ば
 第3節 農業基本法と農業団体のあり方
 第4節 小括
 
第4章  米の統制・米価制度と農協グループ
 第1節 日本の米価政策――二重の価格システム
 第2節 戦後食糧危機と米価審議会
 第3節 朝鮮戦争と米市場の統制
 第4節 予約売渡制の導入――農協グループのイニシアティブ
 第5節 河野構想と米価交渉における農協グループ
 第6節 小括
 
第5章  『家の光』と農協グループ――家族ぐるみの組織化
 第1節 組合員の評価と参加
 第2節 『家の光』の概要
 第3節 『家の光』の創刊から終戦直後まで
 第4節 編集戦略(1)――女性教育と家庭内での自立
 第5節 編集戦略(2)――地域版・生活版の発行
 第6節 小括
 
結論 農協グループの成立と発展から見えるもの
 第1節 得られた知見――制度の継承と維持
 第2節 理論的貢献と含意――組織の起源・超党派性・農業者意識の形成

関連情報

受賞:
第5回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2024年)  
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
博士 (法学) 特別優秀賞 (東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻 2020年12月)
https://researchmap.jp/hkawaguchi/awards/31930456
https://www.j.u-tokyo.ac.jp/graduate/admission/about/
 
書評:
本よみうり堂 清水唯一朗 (慶応義塾大学 教授) 評 (『読売新聞』 2025年3月30日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/reviews/20250331-OYT8T50076/