
書籍名
行政法における組織規範の法的性質
判型など
472ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2025年3月
ISBN コード
978-4-641-22837-5
出版社
有斐閣
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
行政法学は、法を用いて行政を認識し秩序付ける営みであり、この営みにおいて用いられる法の特質 (その法が有している、他の法にはない性質) を解明することは、行政法学の重要な課題である。今日では、行政法を構成する法の中に実体法・手続法と並んで組織法 (組織規範) があることが共通認識となっている。
しかし、組織規範がいかなる特質を持つかについては、十分に研究が進んでいない。例えば、組織規範の特質として、 (1)「組織規範は (少なくともその一部は) 裁判規範性を持たない」・ (2)「組織規範は自然人の行為を行政主体へと帰属させる」という2つの性質がある、と一般に説明されてきた。しかし、本当に組織規範が (1)・(2) の性質を持つのか、持つにせよ持たないにせよそういえる根拠は何か、持つとしてそれは本当に組織規範の特質なのか (他の法規範は (1)・(2) の性質を持たないのか) といったことは、議論 (の余地) が存在するにもかかわらず十分な検討がなく、未だ解明されていないのである。
こうした議論状況の下で、本書は、まず、組織規範の特質を解明するためのアプローチの仕方を整理した上で、これまで組織規範の特質とされてきた (1)・(2) の性質に考察の対象を絞り、 (1)・(2) の性質をめぐる日本の議論を精査した (序章)。次に、19世紀末から現在までのドイツの議論を対象とした比較法研究を行った (第1章・第2章)。最後に、序章・第1章・第2章の作業を踏まえて考察を行い、組織規範は (1)・(2) の性質を持つと一定の根拠を持っていえること、しかし、 (1)・(2) は組織規範の特質ではない (他の法規範も (1)・(2) の性質を持ち得る) 可能性があること、を解明した (結章)。
本書が持つ学術的な意義・社会的意義を簡単に説明すれば、次のとおりである。
本書の学術的意義は、第1に、組織規範の特質の解明という行政法学の重要な課題に正面から取り組み、その取組みの中でこれまでの議論を進展させた、という点にあろう。第2に、これは副次的な意義であるが、本書の検討では行政組織法分野の基本概念を見直す作業も行われたことから、本書の検討を踏まえて行政組織法分野の研究を発展させる可能性が生まれた点も挙げられよう。
本書の社会的意義 (特に現代社会における意義) としては、アルゴリズム・AIを用いた行政活動 (特にいわゆる全自動化行政行為) の統制を考えるための手がかりを提供した点が挙げられよう。以下で、そうした手がかりの一例を紹介する。現在、こうした全自動化行政行為をいかに統制するかということが実務的にも学術的にも課題となっている。統制の仕方の1つとしては裁判統制が想定され、裁判統制を行うためには全自動化行政行為を規律する法規範を構想する必要があるが、近時、こうした法規範を組織規範として捉える理解が示されている。このように、全自動化行政行為の裁判統制のあり方を考える際に、組織規範の裁判規範性についての本書の議論を応用する可能性が存在するのである (詳しくは、本書の結章を参照)。
(紹介文執筆者: 船渡 康平 / 2025年10月24日)
本の目次
第1節 組織規範の法的性質と考察の視座
第2節 問題の設定
第1章 組織規範の裁判規範性
第1節 裁判規範性を持つための条件
第2節 組織規範と外部効果
第2章 組織規範と帰属
第1節 組織規範と帰属との結合
第2節 組織規範違反と行為の帰結
結 章 解答の提示
第1節 日本への導入可能性
第2節 解答
第3節 展望と現代的展開
要約
関連情報
第5回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2024年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html



eBook