東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

クリーム色の表紙

書籍名

政党の誕生 近代日本における複数政党存立の基礎

著者名

松本 洵

判型など

292ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2025年3月18日

ISBN コード

978-4-13-036297-9

出版社

東京大学出版会

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政党の誕生

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政党は、21世紀に入ってすでに四半世紀を経過した今でも、政治について語る際の基本的な単位の一つであり続けています。しかし日本に限ってみても、政党の誕生後150年が経過し、社会の大きな変化を経ているにもかかわらず、なお政党が政治の重要な構成要素であり続けていることは決して当たり前のことではないように思われ、まして、今後も数百年にわたって政党が変わらず中心的な役割を果たし続けると断言することには多少のためらいを覚えざるをえません。たとえば、テクノロジーの発達により人々が政策決定に必要な情報にアクセスしたり、あるいは、自らの意見を直接表明したりすることが格段に容易になった今、政党が意思決定プロセスに介在することは、かえって人々の自由な議論と意思決定を阻害することになると考える人がいたとしても不思議ではありません。もちろん、これまでも「政党」は、その名前こそ同じでも、社会に対応して変化を繰り返してきましたし、これからもしぶとく生き残っていくのかもしれません。このように将来の政党について考えるに際して、政党のこれまでの歴史を一瞥することは、手持ちの材料を多少なりとも豊かにしてくれることでしょう。
 
本書は、日本において政党が誕生した明治時代に遡って、当時の人々が政党という新奇な存在にどのような期待、あるいは警戒を抱いていたのか、そして政党の誕生が社会をどのように変化させたのか、という点を考えようとしたものです。日本に限られたことではありませんが、政党の誕生後の軌跡は紆余曲折に富んだもので、そもそも明治時代より前の時代に「党」という語から連想されるのが、ときに暴力を伴う「徒党」のような不穏な集団だったこともあり、複数の「党」が存在して公然と論争するなどということは決して自明のことではなかったのです。
 
本書では、このようなネガティヴなイメージを帯びて誕生した「政党」がいかにして日本政治における重要な要素となるに至ったのかを、当時の政党の機関新聞での論争や政治家たちの残した史料、そして警察の密偵たちの報告書などを使って描きました。たとえば、自由民権派と対抗関係にあった政府寄りの「官権党」として同時代にも後世にも評判の悪い立憲帝政党という政党が果たした役割や、「無形」の政党という不思議な概念の流行、そして帝国議会開設後に、同じ政党に属する議員たちに議場で一致して投票させる党議拘束のはじまりなどについて検討しています。
 
当時の人々は、政党が異なる意見を闘わせることの重要性に着目していましたが、同時に、その対立が硬直的なものにならず、適切なダイナミズムを保持するための方策を思案していました。明治時代の政党をめぐる経験は、人々の複数性を前提として、それに伴う対立を表現する存在であるという、政党の最も根源的な意義に立ち返ることの必要性を私たちに示してくれるように思われるのです。
 

(紹介文執筆者: 松本 洵 / 2025年7月15日)

本の目次

序章 揺籃期の政党とその特質

第一章 複数政党の誕生と並存――立憲帝政党再考
 はじめに
 第一節 政権与党としての立憲帝政党構想
 第二節 政府による立憲帝政党の否認
 第三節 複数政党か「天下無党」か――立憲帝政党と熊本紫溟会
 小括

第二章 政党における結合のあり方をめぐって――一八八〇年代の政党観
 はじめに
 第一節 集会条例改正と新たな政党観の出現
 第二節 政党の相次ぐ解散と二つの異なる政党観――一八八〇年代半ばの政党
 第三節 大同団結運動と政党組織化の再浮上
 小括

第三章 帝国議会開設と政党の〈一体性〉
 はじめに
 第一節  自由党における「党議」の争点化
 第二節 大成会と結合強化の模索
 第三節 予算問題と自由党の「党議」
 第四節 大成会の組織改革
 小括

第四章 初期議会期における党議拘束の展開
 はじめに
 第一節 民党連合の成立とその運用――第二議会
 第二節 民党連合の隆盛と変質――第三議会
 第三節 民党連合崩壊期における党議拘束
 小括

終章 「政党」と「徒党」のあいだ
 

関連情報

受賞:
第5回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2024年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
書評:
本よみうり堂:清水唯一朗 (政治学者・慶応大教授) 評「民意の組織化 理想と現実」 (読売新聞 2025年6月6日)
https://www.bookbang.jp/review/article/800832
 
イベント:
NEW! 若手研究ランチォン:法学・政治学の最前線【第7回】「政党の誕生——複数政党存立をめぐる明治期の模索」 (北海道大学法学研究科附属高等法政教育研究センター 2025年7月22日)
https://www.juris.hokudai.ac.jp/ad/events/event/20250722/