
書籍名
アメリカの校長のリーダーシップ 生徒一人ひとりの学力とウェルビーイングを高める
判型など
530ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2025年2月4日
ISBN コード
978-4-13-056243-0
出版社
東京大学出版会
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
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本書は、アメリカの校長の専門職基準を対象として、それが作成された1990年代後半からの変遷とその背景を分析したものである。アメリカの事例分析から日本における校長のリーダーシップ論とその実践に関する課題を発見し、新たなリーダーシップ論と今後の展望を見出そうとするものである。
日本では、2016年の教育公務員特例法の一部改正によって、任命権者である教育委員会が校長の資質向上に関する指標と研修計画を策定することとなった。これに関連して、本書では以下2点を指摘している。第一に、2009年には日本教育経営学会が「校長の専門職基準」を策定しているが、校長の資質向上に関する指標と研修計画の策定にあたって、教育委員会がこの学会の策定した基準を参照した形跡は見当たらない。第二に、教育委員会、学会ともに校長のリーダーシップを機能主義的に捉える傾向が強いといえる。日本における校長のリーダーシップ研究も、校長職を行政制度の末端の管理職として、行政の教育目標を確実に実現する機能に限定して位置付ける秩序の枠組みの中で行われてきたといえる。
これに対して、アメリカでは1980年代から、社会や教育をめぐる問題、とりわけ格差・貧困の深刻化や、リスクを持った子どもの増加の問題を背景にして、教育のありようをめぐってさまざまな議論が展開されてきた。本書は、学力向上とアカウンタビリティを重要視する段階を経て、貧困や格差を乗り越えようとして、社会正義をはじめとする倫理的・道徳的な考え方が次第に強くなってきた歴史を可能な限り詳細に考察しようとした。さらに本書は、校長のリーダーシップ像においては、国家経済に発展に資する質の高い人材を教育するために教職員や関係者をマネジメントし、指導することを求めていたのに対して、貧困やその他の理由で学習困難に陥っている「リスクのある生徒」に手を差し伸べるような新しいリーダーシップ像が校長に求められるようになってきたことを、校長の専門職基準が策定され、改定されていく展開を把握し、それらの内容を分析することを通じて考察している。
一方、日本においての子どもの格差や貧困は大きな社会問題になっており、教育行政や学校運営においてもその問題にどのように対応するのかが重要な課題になっている。校長に求められるリーダーシップや資質能力は、長年にわたって行われてきた管理主義的・機能主義的なリーダーシップを転換せねばならないであろう。本書で考察しているアメリカの論争史は、日本における教育のありようをめぐる議論に新しい議論のプラットホームを提供するものであると考えている。
本書の意義は、アメリカの事例から、新しいリーダーシップが生まれてくる経緯を明らかにし、日本の現状に即した問題の発見・提起を行った点である。
(紹介文執筆者: 津田 昌宏 / 2025年3月17日)
本の目次
第一部 教育改革の波の時代に求められた校長像
第1章 教育改革の波と校長職
第2章 「リスクのある生徒」の抱える問題への取り組みと「効果のある学校」研究
第二部 校長のリーダーシップのリストラクチャリング――『学校管理職の基準』の作成
第3章 リストラクチャリング
第4章 『学校管理職基準』の作成
第三部 校長の専門職基準
第5章 アカウンタビリティと社会正義の相克――「基準」の改定へ
第6章 『エデュケーショナル・リーダーの専門職基準』の作成過程と内容分析
終章
関連情報
受賞:
第5回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2024年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
インタビュー:
博士号取得者インタビュー (生涯学習開発団体)
https://www.gllc.or.jp/project/doctorate/doctorate-result/2503-tsuda/
関連論文:
津田昌宏「教職の専門職性としての同僚性」 (『東京大学大学院教育学研究科教育行政学論叢』33巻 2013年10月)
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/31756