東京大学学術成果刊行助成 (東京大学而立賞) に採択された著作を著者自らが語る広場

白い表紙に黄色の線画

書籍名

行政が提供する「家庭」 施設と里親をめぐる日本の政策の展開

著者名

中澤 柊子

判型など

292ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2025年11月25日

ISBN コード

978-4-13-036299-3

出版社

東京大学出版会

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行政が提供する「家庭」

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子どもには温かい「家庭」が必要であるという主張は強い説得力を持つ。家庭環境を理由に元の家族以外でのケアを必要とする子どもに対しても、多くの先進諸国では主に里親家庭が提供されている。これに対し、日本では長らく児童養護施設が中心だった。それはなぜなのか。行政学の議論に基づき、施設か里親かではなく、公共サービスの提供における政府部門と民間部門の関係からこの問いに答えようとしたのが本書である。
 
公共サービスを提供するためには、行政だけではなく民間主体との協働が必要である。「ガバナンス」と呼ばれるこの考えは1980年代以降に欧米諸国で議論され、日本でも新しい行政のあり方として日々追求されている。しかし、日本は欧米よりも先にガバナンスが広がっていた可能性が指摘されてきた。欧米への追いつき型行政のもとで行政が担うべき領域は広いが、人員や予算等の資源は不足している。そこで、日本の行政は民間主体をいわばその手足として用いてきた。では一体、いつから日本の行政はガバナンスの道を歩み始めたのか。そのような行政は、「家庭」が必要とされるはずの子どもに何をどう提供してきたのか。
 
本書の新しさは、第一に日本的なガバナンスによる民間施設の利用が施設ケアの主流化に繋がったこと、第二に日本の行政の伝統としてのガバナンスの起源が近代国家としての形成期である明治政府時代に遡りうることを示したところにある。これは、施設と里親をめぐる政策の展開と社会の変化の歴史を、19世紀後半から100年以上にわたって辿ることで達成された。日本の特殊性は、公共サービスは行政によって直接提供されるべきという考えの下に里親ケアの主流化を進めたアメリカとの対比によってより一層明らかになる。
 
日米の行政による「家庭」の提供の歴史を辿る本書は、児童福祉政策・家族政策に関心を持つ読者にまず有益である。家庭養育優先原則を設けた児童福祉法改正やこども家庭庁の創設など、行政と「家庭」の関係の再編が進むいま、これまでのあり方を振り返る意義は増している。
 
行政活動一般について考えたい読者にとっても、サービスの担い手としての官と民の関係に着目した本書は示唆的であるはずだ。官民協働を謳う一方で生じている「行政から民間への下請け」のような事態は、日本では歴史的に相当根深いというのが本書の知見の一つである。同時に、そのようなガバナンスが日本の行政を貫いてきたとすれば、政策を官民関係の観点から捉え直す必要性も見えてくる。政策の担い手として民間主体がどこまで組み込まれているのか。政策によって民間主体の自由な活動を縛ることに負の作用はなかったのか。行政の責任を果たすことは行政だけによって成り立つものなのか。逆に、行政は何をしなければならないのか。本書はこうしたことを考える手がかりを提供する。
 
ここまで読んで、そもそも行政は「家庭」を提供できるのかを疑問に思った方もいるかもしれない。実は本書の最後ではこの点も検討している。ぜひ直接読んで、一緒に考えてほしい。
 

(紹介文執筆者: 中澤 柊子 / 2026年8月3日)

本の目次

序論 家族に代わるケアと行政
1 本書の課題
2 本書のアプローチ
3 本書の構成

第1章 日本の家族外ケアシステムの官関係の出発
1 「家」のない児童と行政
2 育児院による家族外ケアサービスの提供
3 日本の家族外ケアシステムの官⺠関係の原型の成立
4 里子・貰い子等の私人間委託
5 小括
 
第2章 戦前日本の児童保護行政確立の試みと挫折
1 児童保護行政立ち上げの試み
2 救護法と児童虐待防止法における家族外ケアサービスの構想
3 救護法と児童虐待防止法の家族外ケアシステムへの影響
4 児童虐待防止法以外の私人間委託規制の試み
5 小括
 
第3章 戦後日本の家族外ケアシステムの再構築
1 児童福祉行政による家族外ケアの制御の構想
2 日本的官⺠分離と施設ケアの主流化
3 二つの里親制度の失敗と施設ケアの主流化
4 生まれなかった要養護児童たち:中絶の合法化と強制不妊手術
5 小括
 
第4章 福祉国家としての日本の家族外ケアシステムの軋み
1 児童福祉行政における「家庭」と家族外ケア
2 施設の代わりとしての里親ケアの閑却
3 1980年代以降の家族外ケアシステムの動揺
4 小括
 
第5章 アメリカにおける里親ケアの主流化
1 19世紀アメリカにおける多様な家族外ケアサービスの提供
2 革新主義時代の家族外ケアシステムの制御の試みとその限界
3 大恐慌以降の新たな官⺠関係の成立と里親ケアの主流化
4 里親ケアの主流化以降の家族外ケアシステム
5 小括
 
結論 行政による「家庭」の提供のゆくえ
1 なぜ日本では里親ケアが主流とならなかったのか
2 日本の行政は里親ケアを拡大できるのか
3 行政は「家庭」を提供できるのか
 

関連情報

受賞:
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
 
2024年度日本行政学会 研究奨励賞 論文部門 (JSPA - 日本行政学会 2024年6月)
https://www.js-pa.org/about/award/
 
2023年度日本行政学会 研究奨励賞 ポスター部門 (JSPA - 日本行政学会 2023年6月)
https://www.js-pa.org/about/award/
 
博士 (法学) 特別優秀賞 (東京大学大学院法学政治学研究科 2023年3月)
https://www.j.u-tokyo.ac.jp/graduate/admission/about/
 
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