
書籍名
支援ニーズを抱える子どもと向き合う教師の「判断」 エスノグラフィーでよみとく教師の専門性
判型など
320ページ、A5判
言語
日本語
発行年月日
2026年3月5日
ISBN コード
9784762034732
出版社
学文社
出版社URL
学内図書館貸出状況(OPAC)
英語版ページ指定
本書は、朝、学校に行けば先生がいて、時間になれば授業が始まる―そうした学校の日常の「あたりまえ」が、どのように維持されているのかを、その背後にある教師たちの「判断」の連続として描き出したエスノグラフィーである。本書は、子どもや保護者の声を受けとめ、日常を見とりながら「どのように判断し、その判断によってどのように教育実践を成立させているのか」、絶え間なく続く判断の過程に焦点をあてている。
本書に登場するのは、自分でもよくわからないけれど教室にいることが苦しい子、学校の時間の流れの中でみんなと歩調を合わせて生活をすることが苦しい子、家に帰ることそのものが苦しい子など、学校という場で、多様な支援ニーズをもつ子どもたちである。教師たちは、子どもを支えるだけでなく、保護者への対応や同僚との調整など、複数の要請のあいだで日々判断を迫られている。本書は、そうした状況の中で生じる葛藤や迷い、そしてそれを乗り越えようとする実践の過程を、具体的な語りと観察記録を通して丁寧に描き出している。
本研究は、筆者が5年間にわたり学校現場に入り、「みんなのおべんきょうをお手つだいしてくれるせんせい」として子どもや教師らと生活を共にする中で得られた記録に基づいている。教師の語りや実践を、時間の経過とともに変化していく関係性も含めて記述し、日常のさまざまな場面でなされる判断に焦点をあてている。こうした長期的な関与を通して、教師の判断が単なる個人の意思決定ではなく、他者との関係や学校という組織の中で形成される営みであることを明らかにした点に本書の意義がある。
また本書では、教師だけでなく、支援員や司書教諭、技能員など、子どもたちの生活を支える多様な大人たちの関わりにも着目している。学校内の人材不足や価値観の違いによる衝突といった困難な状況の中で、教師らは、自らのアイデンティティが揺らぐ状況の中で葛藤し、時に他者と衝突しながらも調整を重ね、協働によって学校の日常を維持している。本書は、こうした実践を8つの事例として提示し、教師の役割や専門性がどのように形成・遂行されているのかを具体的に示している。
本書を通して、登場する子どもたちやその背後にある生活、そして悩みながらも実践を継続する教師たちの声に、ぜひ耳を傾けていただきたい。教師の仕事は、不確実で流動的な状況の中で、その都度意味を問い直しながら判断を重ねていく専門的実践である。本書は、学校の日常の「あたりまえ」が、そうした判断の積み重ねによって支えられていることを明らかにするとともに、教師の専門性を固定的な能力ではなく、関係や状況の中で生成される営みとして捉え直す視点を提示する。本書が教師という仕事の複雑さと、その実践を支える思考のありかた、実践の尊さを理解するための一つの手がかりとなったら幸いである。
(紹介文執筆者: 小田 郁予 / 2026年8月25日)
本の目次
第1章 学校の機能維持を支える教師の実践
第2章 本研究の方法と構成
第II部 教師の規範意識と葛藤
第3章 「子どものため」で揺らぐ
第4章 自己の責任をめぐり悩む
第5章 児童支援と教師支援の狭間で悩む
第II部 小括:立場の違いが生む葛藤と連携の契機
第III部 教師の役割取得と役割遂行
第6章 アイデンティティを守る
第7章 空間や時間を活かす
第8章 認識差異をも取り入れる
第III部 小括:寄せられる多様な期待にどう応えるか
第IV部 教師の役割形成と役割遂行
第9章 対立規範から逃れる
第10章 組織の規範を活用する
第IV部 小括: 教育実践を維持するために教師たちは何を活用しているか
第V部 総合考察:ニーズを抱える子どもと向き合う教師の判断
第11章 各章の結果とその意義
第12章 日常の「判断」に見る教師の専門性
関連情報
第6回東京大学而立賞受賞 (東京大学 2025年)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/research/systems-data/n03_kankojosei.html
書評:
渡辺貴裕 (東京学芸大学教職大学院准教授) 評 「学校をなんとか維持する教師の協働」 (渡辺 貴裕|教育方法学者 | note 2026年4月27日)
https://note.com/takahiro_w/n/n34809ec05c93


