ヒューマニティーズ 政治学
政治学の入門書は、日本国内だけでも数多く刊行されている。たが学問としての政治学を学ぶ前に、「政治」そのものについて、それがどういうものであるかを知って、自分でも「政治」について考えられるようになっておく。そのための入門書が必要ではないかと考えて、この本を書いた。もちろん、政治学を学ぶ機会がなくても、あるいはその意欲がなくても、「政治」について知りたいと思う人はいるだろう。そういう読者も含めて、高校生から大学1、2年生くらいの人が読むのにふさわしい本にしようと試みた一冊である。
厳密に言えば「政治」(politics) は、古代ギリシアのポリスで生まれた。自由な市民たちが対等に討論することを通じて、公共の事柄について決定をくだす営みである。そののちの政治思想の伝統のなかで、「政治」はさまざまな内容によって語られたが、そうした原型のイメージは現代にまで残っている。西洋文化圏に属さない日本においても、近代化の過程で憲法や議会制度が導入されたことにより、politicsの訳語としての「政治」という言葉が、一般に流布するに至った。
しかしいま指摘したような「自由」の空間を「政治」の表面だとすると、裏面にあたる領域にも、「政治」について考えるさいには、目を配る必要がある。価値観の異なる相手と共存するためには、妥協が必要である。それは時には、偽善や嘘といった、道徳上はいかがわしいとされる手段を用いることもあるだろう。その現実から目をそらさず、よりよい選択を行おうという努力を続けること。「政治」にむけてのそうした心構えも、重要な意味をもっている。
薄くて持ち運びにも便利な一冊である。「政治」はどうも苦手だが、何だか気になるという人には、ぜひおすすめしたい。一読したのち、かえって「政治」に失望してしまうかもしれないが、それもまた「政治」に関する大事な勉強である。
(紹介文執筆者: 法学政治学研究科・法学部 教授 苅部 直 / 2016)
本の目次
一、日常性と政治──政治学は「役に立つ」のか
㈠ アニマル・ファーム再訪
㈡ 日常のなかの権力──N・Nの例
㈢ 大政治と小政治
二、政治の空間──政治学のこれまで
㈠ 「堕落」と「礼儀」
㈡ 政治の原像と都市
㈢ 「日本」そして「現代」
三、権力と自由──政治学のこれから
㈠ サイゴンの司馬遼太郎
㈡ 自由の根源にあるもの
㈢ 権力と自由
四、政治的リアリズムとは何か──戦後日本の論争から
㈠ 政治と演技
㈡ 偽善のすすめ
㈢ 政治の技術と噓
五、政治学を学ぶために──読んでおきたい本
おわりに
関連情報
西日本新聞 (朝刊) 2012年9月30日
日本経済新聞 (夕刊) 2012年8月16日
北海道新聞 (朝刊) 2012年6月10日