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書籍名

アリストテレス全集19 アテナイ人の国制 著作断片集1 [新版]

著者名

アリストテレス (著)、 橋場 弦 (訳)、 國方 栄二 (訳)

判型など

504ページ

言語

日本語

発行年月日

2014年12月18日

ISBN コード

978-4-00-092789-5

出版社

岩波書店

学内図書館貸出状況(OPAC)

アテナイ人の国制 著作断片集1

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アリストテレスとその学派が158の国々について著したとされる国制誌のうちで、もっとも有名な「アテナイ人の国制」の翻訳・注釈および解説を収録したもの。「アテナイ人の国制」は神話時代から紀元前5世紀末にいたる都市国家アテナイ (アテネ) の国制の沿革と、アリストテレスと同時代のアテナイ民主政の機構の詳細を究めた記述からなる。早くにテクストが散逸したが、19世紀の末にエジプトからほぼ完全なパピルス写本が発見・解読されたことにより、アテナイ史はもとより、ギリシア史そのものも大幅に書き換えられた。学説史上重要なテクストの翻訳は、この30年間の内外での研究状況を反映したものに改め、また詳細な注釈を附した。
 
アリストテレスの名に帰される『アテナイ人の国制』と題するこの小論が、古代ギリシア史研究に及ぼした影響はきわめて深い。一九世紀末にその写本が発見されたのを境に、アテナイ史のみならずギリシア国制史全般の研究は、およそ面目を一新したと言ってよいほどである。アテナイ民主政の成立史と制度運用の実際を克明に記録した本書は、他の史料から得られぬ貴重な知見を提供する。後述のようにその記述には難点も指摘できるとはいえ、本書が歴史家にとって必携の一級史料であることは論を俟たない。
 
アリストテレスはその学派を動員して、ギリシア人異民族を問わず、158の諸国家の国制について、科学的国制誌を編纂したと伝えられる。これらの国制誌は、その後本書をはじめことごとく散逸した。しかし古代の著作に多くの引用が残され、その六八カ国二二三篇におよぶ引用断片は、ローゼ (V. Rose) が編纂したアリストテレス著作断片集に収録された。うち本書からの引用とされる断片は九一篇を数えるが、一九世紀末までの学者たちは、こうしたいくばくかの断片を頼りに本書の全体像を憶測するほかなかった。もしテクストが伝存していれば古代ギリシア史研究への寄与ははかり知れず、それだけにその散逸は歴史家をして大いに嘆かしめたのである。
 
ところが19世紀の末、この『アテナイ人の国制』のほぼ完全なるパピルス写本がナイル川河畔の砂漠地帯から発見され、大英博物館写本部によってそのテキストが校訂・公刊された。我が国における翻訳・注釈は、村川堅太郎によるもの (岩波文庫、1980年) がよく知られているが、刊行から30年以上の年月を経て、その間の研究の進展を受けて、訳文・注釈ともに全面的に改めたのが本書である。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 橋場 弦 / 2017)

本の目次

第1章 キュロンの陰謀と失敗。アルクメオン家の追放
第2章 ソロン改革前夜の党争。ヘクテモロイの窮状
第3章 太古の国制
第4章 ドラコンの国制
第5章 ソロン調停者となる
第6章 負債の切り捨て断行
第7章 ソロンの財産政治
第8章 ソロンの立法 (ほか 第69章まで)
    欠失した冒頭の断片

関連情報

毎日新聞 今週の本棚、2015年4月19日
『史学雑誌 回顧と展望』125-5、2016年5月

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