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表紙にアテネの写真

書籍名

講談社学術文庫 民主主義の源流 古代アテネの実験

著者名

橋場 弦

判型など

288ページ、A6判

言語

日本語

発行年月日

2016年1月9日

ISBN コード

978-4-06-292345-3

出版社

講談社

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民主主義の源流

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世界史上類を見ないほどに徹底した直接民主政を、古代アテネの市民たちはどのように実現したのか。このテーマを、アテネ民主政が創設された紀元前6世紀末からマケドニアに廃止された前322年までの時系列をたどりながら探求する。マラトンの合戦の英雄ミルティアデス、アテネ民主政の完成者ペリクレス、民衆裁判によって処刑された哲学者ソクラテスらの人生を描きながら、アテネ民主政のメカニズムを詳細に明らかにする。一般向けに書き下ろした教養書。
 
ペリクレスが理想とした民主政とはたんなる国家制度ではなく、一つの生活様式 (way of life) であった。そこではどの市民も民主政への参加を期待される。彼は公私両面において経験を積み、有能でなければならない。政治生活に参加せぬ者は、無能な市民と見なされる。市民である以上、だれもが多芸多才 (versatile) であり、適応能力があり、自主独立で、自足した人格であることが当然とされる。ここには、民主政というものの生命が何であるのかについて重要なヒントが読み取れる。
 
古代ギリシアのポリス市民は、あらゆる方面にバランスよく、しかもそこそこに能力を発揮することが、民主政を支える市民としてふさわしい生き方だと考えていたのである。彼らが一人前の市民として活動するにあたっては、じつにさまざまなことが要求された。その生業が農業であれ商工業であれ、彼らはまず自分の家の経営をよく行なわねばならぬ。偉大な政治家ペリクレスが、家計の収支管理に厳格だったことを想起しよう。家の経営には奴隷の監督や婦女子の管理・教育も当然含まれる。一方公の場にあっては民会に参加し、陪審員を務め、役人の抽選にあたれば一年間はその任務に忙殺される。一朝事あった場合には、戦士として命をかけて戦場におもむかねばならない。戦闘で不覚を取らぬためには、体育場でふだんから身体の鍛練を怠らないのが市民たるもののたしなみであった。公と私、精神と肉体の各領域に自分の能力をまんべんなく育てることが求められた。
 
兵役も含めた多くの役目をすべての市民が順ぐりに務めるという民主政のしくみが、そのような人格を必要としたのである。これまで教科書などで「衆愚政治」というレッテルを貼られてきたアテネ民主政が、実は精緻な制度と一般市民の積極的な政治参加によって支えられたものであり、しかもこれまで「堕落した」と非難されてきた前4世紀にこそ、その真価を発揮していたことを、説得力をもって論じた書物である。
 
旧著『丘のうえの民主政――古代アテネの実験』(東京大学出版会、1997年) の改訂文庫版。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 橋場 弦 / 2017)

本の目次

はじめに
第一章 マラトンの英雄とその死
第二章 指導者の栄光と苦悩
第三章 参加と責任のシステム
第四章 迷走するアテネ
第五章 民主政の再生
第六章 たそがれ
おわりに

関連情報

感想・レビュー:
Amazon:
https://www.amazon.co.jp/dp/4062923459
 
読書メーター: (民主主義の源流 古代アテネの実験 感想・レビュー)
http://bookmeter.com/b/4062923459

内科医宇都宮隆法の書評ブログ (2016年1月28日)
民主主義の源流 古代アテネの実験 (講談社学術文庫)
http://utsunomiyatakanori.com/2016/01/28/53538403/

個人サイトHISTORIAの読書ブログ: 今月のお薦め (2016年1月12日)
「橋場弦「民主主義の源流 古代アテネの実験」講談社(学術文庫)」
http://navy.ap.teacup.com/book-recommended/337.html
 
個人ブログ見もの・読みもの日記 (2016年1月26日)
アテネ民主政の経験に学ぶ/民主主義の源流(橋場弦)
http://blog.goo.ne.jp/jchz/e/2198112104c7f541114416c76c7fd305

書評:
朝日新聞「論壇時評」2015年6月25日付け 高橋源一郎
北海道新聞「卓上四季」2017年6月15日
毎日新聞「余録」2016年12月10日
毎日新聞「余録」2017年5月30日
『週刊読書人』1998年3月13日
『図書新聞』2016年2月6日
毎日新聞「今週の本棚」2016年2月6日
 

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