
書籍名
岩波新書 古代ギリシアの民主政
判型など
268ページ、新書版
言語
日本語
発行年月日
2022年9月21日
ISBN コード
9784004319436
出版社
岩波書店
出版社URL
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およそ二五〇〇年前、古代ギリシアに生まれた民主政。順ぐりに支配し、支配されるという人類史にかつてない政体は、いかにして考え出され、実施されたのか。公共性に一人ひとりが平等にあずかり、分かちあうことを基本にして古代の民主政を積み重ねた人びとの歴史的経験は、いまを生きる私たちの世界とつながっている。
本書は本学文学部での特殊講義をもとに、古代ギリシアに民主政という政治スタイルがどのようにして誕生し、どのようなメカニズムによって機能し、どのような経緯をたどったのかを、最新の研究動向を反映させ、また一次史料をも紹介しながら、初学者にもわかりやすく物語ったものである。ローマの征服によって消滅した後、古代ギリシアの民主政が一貫して衆愚政治の烙印を押され、否定的な評価を受け近代に至り、それが今日の日本の世界史教科書にも色濃く影を落としているのは、どのような歴史的経緯によるものかをも論じる。その意味で、本書はたんなる古代ギリシア史の概説書としてではなく、民主主義の問題を古代にさかのぼった視点から捉え直す問題提起として読むことが出来よう。
民主政は、ポリスと呼ばれる古代ギリシア固有の都市国家に誕生したが、それは全体の三分の一程度にとどまり、それ以外のポリスは最後まで貴族政 (寡頭政) か僭主政 (独裁政) のいずれかであった。民主政がアテナイ (アテネ) ではじめて実現したのは、他国にくらべて例外的に広い領土と多くの住民を抱えた国家をいかに統合し、スタシス (内部抗争) に終止符を打って強国となるか、という現実的な課題への応答として、それがもっとも適合的な政体であったからである。ペロポネソス戦争中の政界の混乱と敗戦とは、のちにしばしば衆愚政治の典型事例として取り上げられたが、これは人口過密・大量死・飢餓といった極限状況に起因する例外的な現象であった。ペロポネソス戦争敗戦後、内戦の痛手から立ち直ったアテナイ市民は、ふたたび民主政という生き方をあらためて選び取り、以後前4世紀末に至るまで、アテナイ民主政はきわめて安定した支配を続けることとなった。
その後アテナイはマケドニアの支配下に置かれ、前322年に一旦は民主政を強制的に廃止させられたが、これは民主政が伝統的な生活様式となっていたアテナイ市民にとって到底容認できる事態ではなく、民主政の復活を目指して何度も蜂起し、断続的に民主政は続いていった。最終的にローマの属州となったあとも、彼らは「デモクラティア」の看板を下ろそうとはしなかった。民主政は滅亡したのではなく、歴史の闇の中に溶暗していった。近代民主政の本質は代議制 (代表制) にあるが、古代民主政は「あずかる」「分け持つ」、すなわち全員が何かの形で公共性に参加するということに本質がある。古代と現代との大きな差異を超えて、それは民主政の始原的な生命であり続ける。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 橋場 弦 / 2023)
本の目次
第1章 民主政の誕生
第2章 市民参加のメカニズム
第3章 試練と再生
第4章 民主政を生きる
第5章 成熟の時代
第6章 去りゆく民主政
おわりに 古代から現代へ
関連情報
本村凌二 評 (ALL REVIEWS 2024年1月9日)
https://allreviews.jp/review/6402
増子耕一 評「【記者の視点】西洋の世界史的な意味 民主主義の精神を守り育む」 (世界日報 2023年2月25日)
https://www.worldtimes.co.jp/opinion/reporterview/20230225-169283/
今週の本棚 (毎日新聞 2023年1月14日)
https://mainichi.jp/articles/20230114/ddm/015/070/008000c
苅部直 評「現代に通じる生活の「文法」」 (読売新聞 2022年12月2日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/review/20221128-OYT8T50053/
山陰中央新報 2022年11月26日
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/303362
ポケットブック (『図書新聞』3565号 2022年11月5日)
https://toshoshimbun.com/product__detail?item=1703316324245x302551793285136900
『週刊読書人』第3461号 2022年10月21日
https://dokushojin.net/dokushojin/353/
書籍紹介:
河島思朗 (京都大学文学研究科・准教授) #京大の先生の推し本 (京都大学学術出版会 | note 2024年4月10日)
https://note.com/kyoto_up/n/n067b83e8e238
新刊紹介 (『史学雑誌』132編第2号 p. 90 2023年)
http://www.shigakukai.or.jp/journal/index/vol132-2023/#back_02
特集 新書大賞2023 (『中央公論』 2023年3月号)
https://chuokoron.jp/chuokoron/backnumber/122504.html
読書アンケート (『みすず』 2023年1・2月号)
https://www.msz.co.jp/book/magazine/202302/
読書委員が選ぶ「2022年の3冊」(上) (読売新聞 2022年12月30日)
https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/feature/CO036371/20221226-OYT8T50021/
中部経済新聞 (2022年12月3日)
沖縄タイムス (2022年11月26日)
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1063445
合評会:
内田康太「ギリシア民主制――ローマ共和政のまなざし」 (東京大学文学部・人文社会系研究科西洋史学研究室主催 2022年9月21日)
https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/record/2007498/files/CLIO_37_4.pdf