
書籍名
学問としてのオリンピック
判型など
260ページ、四六判
言語
日本語
発行年月日
2016年7月
ISBN コード
978-4-634-64084-9
出版社
山川出版社
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スポーツの祭典オリンピックは、なぜ多くの人々の関心を集めるのか。その理念に焦点をあて、オリンピック持つ意味を歴史・哲学・芸術・スポーツ科学といった複数の視点から考える。オリンピックの本来の目的や理念が何であったのかを、より広い知の文脈に位置づけ直してみる試みである。各章の内容は、東京大学教養学部前期課程 (1・2年生を対象とする課程) で2015年度に開講された「国際研修」科目の一つである「学問としての『オリンピック』」でのリレー講義をもとにしたものである。高度に商業化した今日のオリンピックを、教養としての知の文脈の中で捉え直す視点を提供している。
古代ギリシア史を専門とする橋場弦が担当した第1章では、近代オリンピックの起源とされる古代ギリシアでのオリンピアでの運動競技会の起源と成立、祭典と競技の様子を見た上で、その背景にある古代ギリシア人のものの見方・考え方や人生観を探る。ギリシア哲学が専門の納富信留が担当した第2章は、古代ギリシアの詩人・哲学者・弁論家たちの言説を紹介しつつ、哲学が反オリンピック的性格を持つことを明らかにする。西洋美術史が専門の飯塚隆が担当する第3章は、古代ギリシア人の肉体のとらえ方が芸術作品にいかに反映されているかを、多様な図版を用いながら論じ、また考古学的知見に基づいて、オリンピアの神殿や古代オリンピアのスタジアムの位置について考察する。スポーツ・バイオメカニクスが専門の深代千之は第4章で、古代から今日のオリンピックに至るまで、多くの競技種目に共通する基本的な動きである「走る」「跳ぶ」「投げる」の3つの動作に焦点を当て、科学の視点からこれらを分析する。近現代ギリシア史を専門とする村田奈々子は第5章で、オリンピックを近代に蘇らせた理念と、第1回近代オリンピック開催地ギリシアにおけるナショナリズムの対立を明らかにする。そのうえで、近代オリンピックが始まって一世紀以上を経た今、近代オリンピックの創始者クーベルタンがその理念に託した人間賛美のメッセージに、改めて思いを潜めることの大切さを主張する。そして「おわりに」では、編者の一人、橋場が、オリンピックが今後どのような方向性にすすむかを展望した上で、人類の連帯感をはぐくむ場として成長するか、あるいはコマーシャリズムに屈して資本の暴走と世界の分断に手を貸す結果に終わるのか、と問いかける。
(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 橋場 弦 / 2017)
本の目次
第1章 古代オリンピック
――ギリシア人の祝祭と身体……橋場 弦
第2章 精神と肉体
――オリンピックの哲学……納富信留
第3章 オリンピックと芸術
――ビジュアルな古代ギリシア……飯塚 隆
第4章 スポーツを科学する
――身体運動の動作分析……深代千之
第5章 近代オリンピックの始まり
――普遍的理念とナショナリズムのせめぎ合い……村田奈々子
おわりに