東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白とマスタードイエローの表紙

書籍名

放送大学教材 西洋哲学の根源

著者名

納富 信留

判型など

256ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2022年

ISBN コード

978-4-595-32318-8

出版社

放送大学教育振興会

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

西洋哲学の根源

英語版ページ指定

英語ページを見る

西洋哲学は古代ギリシアで始まったと言われる。その伝統は、いくつかの経路を辿って、現代私たちが学ぶ哲学の基礎をなしている。そこではどんな問題が提起され、どんな議論が交わされ、どんなアイデアが提出されてきたのか。ギリシア哲学の重要性を広い視野から見渡すことを意図した本書は、放送大学でのラジオ教材として作成されたが、一般向けの概説書として、著者が2021年に刊行した『ギリシア哲学史』(筑摩書房) と合わせて読んでもらえる。
 
全15章は、大きく3つのパートに分かれる。第1のパートは最初の2章で、全体へのイントロダクションとして「ギリシア哲学」の定義と位置づけを行い、1100年の期間を4期に分けてそれぞれの段階の哲学の特徴を提示する。
 
第2のパートでは、「複眼的哲学史」として10章にわたり哲学史の10の筋が紹介される。それぞれの筋は10節ずつで10の哲学者・学派を紹介して、多様な哲学の展開が辿られる。
 
哲学史の筋1は「世界観の提示」とし、ホメロスとヘシオドスの叙事詩からタレスの哲学を経て、宇宙と世界を語る多様な視点を整理していく。そこでは「秩序、自然」といった概念が中心的な役割を果たす。
 
哲学史の筋2は「善く生きる知恵」と題し、生きる知恵を語った七賢人からソクラテスや懐疑主義者までの伝統を整理する。そこでテーマになるのは「幸福、徳、快楽」等である。
 
哲学史の筋3は「万物の原理」で、「アルケー (始源)」への問いを発したタレスやアナクシマンドロスからプラトン、アリストテレスまで、多様な原理探究が紹介される。数を原理に据えたピュタゴラス派や、原子と空虚だけを認めた原子論、「一者」を究極原理とした新プラトン主義などが取り上げられる。
 
哲学史の筋4は「スタイルの葛藤」として、異なる語り方が哲学を展開させたことを示す。神の言葉を語った詩人から、それを打破する人間の言葉を提示したイオニア自然学、箴言や弁論や対話篇や書簡や自伝といった多様な言論スタイルが紹介され、あえて書物を残さなかった哲学者たちにも触れられる。
 
さらに、哲学史の筋5「神と人間の緊張」、筋6「魂への配慮」、筋7「「ある」をめぐる形而上学」、筋8「言論と説得」、筋9「知の可能性への問い」、筋10「真理探究の学問」として、時に同じ哲学者が何度か登場する重層的な区分けで、ギリシア哲学の全体像を浮かび上がらせる。
 
本書で第3のパートでは、ギリシア哲学の特徴を「観想 (テオーリアー)、競争 (アゴーン)」等の概念から整理する。そして、そのギリシア哲学が世界各地域でどのように受け継がれてきたかを、中世から現代まで辿り、とりわけ19世紀以降の日本でどのような役割を担ってきたかが検討される。
 
以上の構成からなる本書で、西洋哲学、ひいては世界哲学の基礎をなすギリシア哲学の意義と豊かさを、改めて全体として学ぶことができるはずである。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 納富 信留 / 2024)

本の目次

まえがき
第1回 哲学の起源
1 現代における哲学
2 ギリシア哲学の二つの意義
3 正と負の側面
4 哲学の始源性
5 「哲学の始まり」をめぐって
 
第2回 西洋古代哲学の全体像
1 ギリシア哲学史の規定
2 ギリシア哲学の時間と空間
3 ギリシア哲学の言語と宗教
4 ギリシア哲学史の4期区分
5 ギリシア哲学の資料
6 複眼的哲学史の試み
 
第3回 哲学史の筋1:世界観の提示
1 世界を物語る:ホメロス、ヘシオドス
2 世界を説明する:タレス
3 宇宙の中心にある地球:アナクシマンドロス
4 宇宙の調和と円環変化:ピュタゴラス、フィロラオス
5 宇宙の円環変化:エンペドクレス
6 混沌から秩序へ:アナクサゴラス
7 原子の離合集散:デモクリトス、エピクロス
8 最善の宇宙制作:プラトン
9 自然と自然を超える根拠:アリストテレス
10 宇宙と神とロゴス:ストア派
 
第4回 哲学史の筋2:善く生きる知恵
1 生きる知恵:七賢人
2 知への覚醒:ヘラクレイトス
3 輪廻する生:ピュタゴラス、エンペドクレス
4 徳の教育:ソフィスト
5 知の吟味としての徳:ソクラテス
6 労苦と自足:アンティステネス、シノペのディオゲネス、ストア派
7 快楽と幸福:アリスティッポス、エピクロス
8 正義と善:プラトン
9 観想の幸福:アリストテレス
10 疑うことによる平静:アルケシラオス、ピュロン
 
第5回 哲学史の筋3:万物の原理
1 問いの発端:タレス
2 始源への問い:アナクシマンドロス
3 始源の候補:アナクシメネス、ヘラクレイトス
4 数の秩序:ピュタゴラス、ピュタゴラス派
5 運動の原因:エンペドクレス、アナクサゴラス
6 イデアという原因:プラトン
7 原理の数:スペウシッポス、クセノクラテス
8 四原因説:アリストテレス、テオフラストス
9 原子と空虚:デモクリトス、エピクロス
10 一者からの発出:新プラトン主義
 
第6回 哲学史の筋4:スタイルの葛藤
1 神の言葉の語り:ホメロス、ヘシオドス
2 散文の開発:アナクシマンドロス、イオニア自然学
3 詩の内部での批判:クセノファネス
4 箴言という謎かけ:ヘラクレイトス
5 再び叙事詩で語る:パルメニデス、エンペドクレス、ルクレティウス
6 弁論という舞台:アンティフォン、ゴルギアス
7 ソクラテスの対話篇:プラトン、クセノフォン、アイスキネス
8 書簡をつうじた哲学:イソクラテス、エピクロス
9 自伝での哲学:プラトン、マルクス・アウレリウス、アウグスティヌス
10 書かない哲学者と伝記:ソクラテス、シノペのディオゲネス
 
第7回 哲学史の筋5:神と人間の緊張
1 神々の秩序:ホメロス、ヘシオドス
2 神々と自然:タレス、アナクシマンドロス、アナクシメネス
3 神話批判:クセノファネス
4 不可知論:プロタゴラス
5 啓蒙神学:プロディコス、クリティアス
6 敬神の哲学:ソクラテス、プラトン
7 無神論:メロスのディアゴラス、テオドロス、エウヘメロス
8 人間に関わらない神:エピクロス
9 自然とロゴスである神:ストア派
10 神との合一:プロティノス
 
第8回 哲学史の筋6:魂への配慮
1 魂という概念:ホメロス
2 魂への注目:ヘラクレイトス
3 魂の輪廻転生:ピュタゴラス
4 魂の浄化:エンペドクレス
5 魂への配慮:ソクラテス
6 魂と肉体、三部分説:プラトン
7 生物原理としての魂:アリストテレス
8 原子の構成物としての魂:エピクロス
9 理性的魂の振幅:ストア派
10 宇宙魂と人間の魂:プロティノス
 
第9回 哲学史の筋7:「ある」をめぐる形而上学
1 「ある」への問い:パルメニデス
2 「ある」の一元論:メリッソス
3 四根と愛・争い:エンペドクレス
4 万物混合の存在論:アナクサゴラス
5 原子と空虚:デモクリトス、エピクロス
6 空気の一元論:アポロニアのディオゲネス
7 「ある」と「ない」の結合:プラトン
8 イデア論批判:スペウシッポス、クセノクラテス
9 「ある」の多義性、現実態:アリストテレス
10 存在を超える根拠へ:プロティノス
 
第10回 哲学史の筋8:言論と説得
1 言葉と真理:ヘシオドス
2 ロゴスとは:ヘラクレイトス
3 真理の言論:パルメニデス
4 パラドクス:ゼノン
5 説得の技術:ゴルギアス、アンティフォン
6 正しい言葉遣い、文芸批評:プロタゴラス、プロディコス
7 弁論術の教育:イソクラテス、キケロ
8 言葉の中での探究:ソクラテス、プラトン
9 論証と問答と弁論:アリストテレス
10 言葉で成り立つ宇宙:ストア派
 
第11回 哲学史の筋9:知の可能性への問い
1 認識への問い:クセノファネス
2 人間の混迷:ヘラクレイトス
3 人間の思い込みと真理:パルメニデス、ゼノン
4 相対主義:プロタゴラス
5 不知の自覚:ソクラテス
6 知識と思い込み:プラトン
7 論証的知識の体系:アリストテレス
8 表象による把握:ストア派、エピクロス派
9 全てを疑う:アカデメイア懐疑派、ピュロン
10 知性と存在の一致:プロティノス
 
第12回 哲学史の筋10:真理探究の学問
1 自然探究:アナクシマンドロス
2 数学的学問:フィロラオス、アルキュタス
3 学知の教授:ソフィスト、イソクラテス
4 学園での研究:プラトン、スペウシッポス、クセノクラテス
5 共同研究:アリストテレス、テオフラストス
6 生き方に従う共同体:エピクロス
7 総合的学知:キティオンのゼノン
8 自由学芸:フィロン
9 注釈による知:アレクサンドロス、新プラトン主義
10 プラトン主義の体系化:プロクロス
 
第13回 ギリシア哲学の特徴
1 総覧による共通の特徴
2 観想(テオーリアー)
3 競争(アゴーン)
4 問いと答え
5 反対と媒介
6 類比の思考
7 知性的に認識して生きる人間
 
第14回 ギリシア哲学の遺産
1 古代哲学の終焉
2 中世:ラテン西欧、イスラーム、ビザンツ
3 ルネサンスの古典復活
4 近代における古典主義
5 古代への憧憬と批判
 
第15回 日本におけるギリシア哲学
1 本格的な出会い以前
2 啓蒙時代のギリシア哲学
3 ギリシア哲学書の翻訳
4 日本社会におけるギリシア哲学
5 現代の研究と関心
6 ギリシア哲学の未来
 
付録 1 ギリシア哲学史関連地図
2 ギリシア哲学史関連年表
索引
 

関連情報

ラジオ授業科目案内:
放送大学「西洋哲学の根源(’22)」(ラジオ授業科目案内) (放送文学YouTubeチャンネル 2023年8月30日)
https://www.youtube.com/watch?v=qqMivEEEk04
 
インタビュー:
The Salon - Guest:NOTOMI Noburu (Professor, Dean, Graduate School of Humanities and Sociology)  (東京カレッジ | YouTube  2024年1月12日)
https://www.youtube.com/watch?v=i8rbpZm7hXA
 
第51回 多彩な知識人が集うアテナイに学ぶ知的イノベーションと都市 (株式会社日立総合計画研究所 2021年5月)
https://www.hitachi-hri.com/reciprocal/i051.html
 
関連記事:
ぴぴりのイチ推し!これから哲学を学ぶ人へ【ギリシア哲学のイントロダクション】 (東大TV / UTokyo TV 2024年2月6日)
https://tv.he.u-tokyo.ac.jp/pipili23_2022_friday_noutomi/
 
関連動画:
納富信留「古代ギリシア哲学を学ぶ意義」 高校生と大学生のための金曜特別講座 (東大TV / UTokyo TV | YouTube 2023年9月19日)
https://www.youtube.com/watch?v=WJq903MLH2E
 
【哲学】納富信留「古代ギリシア三賢人のアクチュアリティ」by LIBERARY (LIBERARY | YouTube 2023年8月9日)
https://www.youtube.com/watch?v=SWXxyPHFW5Q
 
1話10分で学ぶ教養動画メディア (納富信留) (テンミニッツTV 2018年~)
https://10mtv.jp/pc/content/lecturer_detail.php?lecturer_id=183
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています