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グレーベージュの表紙

書籍名

ギリシア哲学史

著者名

納富 信留

判型など

752ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2021年3月17日

ISBN コード

978-4-480-84752-2

出版社

筑摩書房

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ギリシア哲学史

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古代ギリシアの哲学者というと誰を思い浮かべるだろうか。ソクラテス、プラトン、アリストテレスという3人の他に、具体的なイメージは湧かないかもしれない。しかし、紀元前6世紀にイオニア地方で始まった古代ギリシア哲学は、古典期にアテナイで盛期を迎えた後、ヘレニズム世界とローマ帝国を経てキリスト教が支配的となる後6世紀前半まで、1100年にもわたって展開された。
 
その前半部を網羅的に論じる『ギリシア哲学史』は、本論の32章で33名の哲学者を紹介していくが、それに加えて、同時代に活躍した哲学者と彼らの言行を後世に伝えた古代後期の著作家300名以上も登場する。古代ギリシア哲学がいかに幅広く、いかに多彩な思索が展開したかを見ると、ソクラテスら代表者はそのごく一部にすぎないことが分かる。他方で、前4世紀までのギリシア哲学で著作のほぼ全てが残っているのはプラトン、クセノフォン、アリストテレスだけであり、ごく少数の哲学者にはいくつかの著作が伝承するものの、それ以外はすべて断片的な引用や後世の証言から再構成されたものに過ぎない。それらを読み解くには特別のスキルと知識が必要となる。
 
西洋から日本に受容されて現在の哲学的営為のモデルとなった古代ギリシア哲学は、これまでも広く紹介され、個別の哲学者は専門的研究の対象となってきた。だが、その範囲の広さと近年の研究進展によって、単独の著者による通史はきわめて困難とされ、国内外でも定番となる書物は少ない。そのなかで本書は、最先端の研究成果を紹介しながら一般の読者の関心に供する哲学史を目指して執筆された。
 
本書の特徴は「列伝」形式にある。これまで書かれてきたギリシア哲学史は複数の哲学者を「学派」に一括して扱う傾向にあったが、そうした学派は後世に無理にまとめられたものが多く、個々の哲学者の個性や独自性はかき消されがちであった。それに対して、本書は個々の哲学者について人生と著作を紹介し、思想を整理して、最後に後世の受容を紹介する。そうして論じられた33名の哲学者は実に多様で豊かな思索を展開しており、全体像が壮大な規模で浮かび上がってくる。
 
もう一つの特徴は、そうして読み解く「資料」、つまり古代の文献を扱う方法論を提示した点である。例えば、初期の哲学者で「断片」として論じられる文言が一体どのような資料なのか。それを含む書物はどのように二千年を伝承したのか。さらにどのように「断片集」に編集されたのか、などが序章で説明される。古代の哲学者を扱う方法を学ぶことで、彼らの思索とその伝統の本質に迫ることにもなる。
 
これらを一つの叙述で総覧することで、古代の豊かな思索が現代の哲学や社会において蘇ってくる。古代ギリシア哲学が現代の日本、そこに生きる私たちにどれほど大きな影響を与えているかを感じとってもらえれば幸いである。

 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 納富 信留 / 2021)

本の目次

はじめに
第1部 ギリシア哲学史序論
 序章1 ギリシア哲学とは何か
 序章2 ギリシア哲学資料論
第2部 初期ギリシア哲学
 A ギリシア哲学の他者
 B 総論―初期ギリシア哲学の枠組み
 C イオニアでの探究
 D イタリアでの探究
 E イオニアでの自然哲学
第3部 古典期ギリシア哲学
 A 総論―古典期ギリシア哲学の枠組み
 B ソフィスト思潮とソクラテス
 C ソクラテス文学とプラトン
 D アカデメイアとアリストテレス
あとがき

 

関連情報

受賞:
第三十四回和辻哲郎文化賞 学術部門受賞作 (姫路文学館 2022年2月)
http://www.himejibungakukan.jp/watuji/jyusyoushiki/
http://www.himejibungakukan.jp/wordpress/wp-content/uploads/2022/02/gaku34.pdf
 
自著解説:
「いま、ギリシア哲学から始める――「人類の知の源泉」に何を学ぶか」 (じんぶん堂 2022年2月16日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14544567

著者からのメッセージ:納富信留『ギリシア哲学史』:「ギリシア哲学史」を書くということ (日本西洋古典学会ホームページ「新刊書フォーラム」 2021年)
https://clsoc.jp/agora/newbooks/2021/210430.html
 
書評:
星野太 評 (『artscape』 2021年11月号)
https://artscape.jp/report/review/10171825_1735.html
 
中島隆博 評「書評184: 始まりを始めること」 (『UP』 2021年10月号)
http://www.utp.or.jp/book/b592751.html
 
哲学ワンダーランド・古代ギリシア 「入門」からその先へ 紀伊國屋書店員さんおすすめの本 (好書好日 じんぶん堂 2021年9月6日)
https://book.asahi.com/jinbun/article/14427293
 
斎藤元紀 評「今年度上半期「哲学」本」  (『週刊読書人』 2021年7月23日号)
https://dokushojin.stores.jp/items/60f683c30d4f3a1d11652b0c
 
イベント:
納富信留×栗原裕次「あらためてギリシア哲学史を語る」『ギリシア哲学史』(筑摩書房)刊行記念 (本屋B&B 2021年5月30日)
http://bookandbeer.com/event/20210530a/
 
関連動画:
1話10分で学ぶ教養動画メディア (納富信留) (テンミニッツTV 2018年~)
https://10mtv.jp/pc/content/lecturer_detail.php?lecturer_id=183

 

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