東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙にジオメトリックなイラスト、独語タイトルもあり

書籍名

近代測量史への旅 ゲーテ時代の自然景観図から明治日本の三角測量まで

著者名

石原 あえか

判型など

352ページ、A5判、上製

言語

日本語

発行年月日

2015年9月

ISBN コード

978-4-588-37123-3

出版社

法政大学出版局

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近代測量史への旅

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白地に黒字が映えるニス引きカバー、それを外した本体は大地を連想させる茶系クラフト紙を、見返しには海または等高線を思わせる波紋が入った青色を。著者が考えられる限りのおめかしをさせて、2015年の秋、『近代測量史への旅』を送り出しました。
 
本書は2011年夏にドイツ・ヴュルツブルクの学術出版社から刊行した3冊目のドイツ語単著『地球の可測性 Die Vermessbarkeit der Erde』をもとにしています。こちら当時、ドイツ語圏で話題になっていたダニエル・ケールマンの、科学史を活用しつつもパロディー要素を多分に含んだ現代小説『世界の測量 Die Vermessung der Welt』(三修社からの邦訳有) をもじったタイトルを付けましたが、副題は『三角測量[の学問]史 Die Wissenschaftsgeschichte der Triangulation』の通り、小説でコミカルに登場するガウスやアレクサンダー・フォン・フンボルトの一次文献に取り組んだ、科学史的性格が強い研究書です。ちなみに私がドイツで刊行した最初の単著、ケルン大学への学位請求論文を手直しした『マカーリエと宇宙 Makarie und das Weltall』(1998) と2冊目『ゲーテの《自然》という書物 Goethes Buch der Natur』(2005) の邦訳はありません。
 
実は3冊目もドイツで無事刊行でき、しばらくしてからドイツ語圏の独文学や測量の雑誌に書評が幾つか出たのに満足して、日本の読者向けに大幅増補 & 改定、否、ほぼ書下ろす予定など全くありませんでした。なぜなら私の専門である「ゲーテと自然科学」というテーマは、日本の出版業界では受容されにくいのを知っていたからです。日本では研究にしても文系・理系にやたらと分ける傾向があり、私の著作は -- 日本語単著『科学する詩人ゲーテ』(2010) を筆頭に -- その分類からあぶれやすく、いつも編集や営業担当者を困らせます。本書もゲーテ研究の成果でありながら、ドイツ文学の棚には置かれず、ごく一部は歴史、多くは無謀にも (?) 「工学」や「測量」の理系の棚に配置されました。
 
「配架が致命的に間違いだ、編集者を泣かせてしまう…!」と心を痛めながら、刊行から数か月が経った頃。独文学系の手ごたえはいまひとつ、残念ながら「測量」と見ただけで拒否反応を起こされた方が多いようですが、測量学・地理学・科学史・地学などの複数の専門家から徐々に反応があったのは、本当に嬉しく、ありがたいことでした。でもどの書評にも「著者はゲーテの研究者だが」と、暗に「想定外」という断り書きがあるのには、苦笑させられましたが…。本書をきっかけに日本測量協会の機関誌『測量』にコラムを書く機会にも恵まれましたし、本郷・工学部図書館の測量展にも並べてもらえるなど、居場所が見つからないかと心配した私の本は、それなりに健闘しているようです。
 
でも…そんなに難解な理系の本ではないのです! 確かに人名も多いし、扱う時空間も大きいけれど、これぞゲーテ研究の醍醐味、ひとつ騙されたと思って、手に取って下さいませんか? 冒頭のカラー口絵も気合が入っていて、きっと見ごたえがあるはずです!
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 石原 あえか / 2016)

本の目次

はじめに
一 本書のねらい 近代科学史の一研究として
二 調査の対象と研究方法について
三 本書の構成

第一章 地球の形状と三角測量
一 地球の真実の形状をめぐる議論
二 モーペルテュイとラップランド測量遠征
三 ペルー遠征隊のゆくえ その成果と再発見
四 植物学領域での貢献 ジュシューとキナノキ
五 カッシーニ三代とフランス測地図
六 原初メートル ドゥランブルとメシャンのパリ子午線計測

第二章 テューリンゲン測量とミュフリング大尉
一 パリとゴータ間の相互影響関係 ラランド、ツァッハ、ガウス
1 ラランドとツァッハの共同事業
2 ゴータ開催の第一回国際天文会議
3 ガウスと彼の発明した最小二乗法
4 テューリンゲン三角測量へのツァッハの貢献
二 ゲーテの『親和力』とミュフリング大尉
三 ジャン・パウルの小説『カッツェンベルガー博士の湯治旅行』
   凛々しき登場人物・トイドバッハ大尉
四 トランショとミュフリングによるライン地方地図測量
五 ミュフリングとプロイセン測量

第三章 学術図版と自然景観図
一 ゲーテとヴァイマル自由絵画学校
二 イェーナ大学専属絵画教師
 1 大学専属絵画教師という職業
 2 イェーナ大学専属絵画教師 シェンク、エーメ、ルーA
 3 数学教授ゲルステンベルクとケバ付け技法
三 気圧計を用いた標高測定
 1 一八〇〇年前後の「見る欲求」と気圧計による標高測定
 2 A・v・フンボルトの『チンボラソ山登頂の試み』
 3 W・A・ミルテンベルクの『地球の標高』
 4 ヴァイマル大公カール・アウグストとゲーテが気象学に関心を持った理由
 5 初代イェーナ大学附属天文台長シュレーンと公国内気象観測網
 6 ホッフによる携帯用気圧計を使った地形測量
四 ゲーテ時代の自然景観図
 1 ゲーテの自然景観図《新旧大陸の標高比較》とフンボルトの修正
 2 ゲーテがルーに依頼した《象徴的雲の形成》原画
 3 ゲーテお気に入りの一幅
-- 医師ヴィルブラントとリトゲンの共作《有機的自然の景観図》

第四章 江戸時代の日欧相互学術交流
一 江戸時代の天文学 ラランドと天文方・高橋至時
二 ナデシュダ号艦長クルーゼンシュテルンとサハリン
   あるいはゲーテと日本の間接的結びつき
三 地質学者レオポルド・フォン・ブーフと日本の火山
四 伊能忠敬の『大日本沿海與地全図』とシーボルトの『原図日本国図』
 1 密命を帯びたオランダ商館医シーボルト
  2 江戸城紅葉山文庫の『伊能図』
    -- または三人の地理学専門家 最上徳内、間宮林蔵、高橋景保
五 アンナ・アマーリア公妃図書館所蔵の二枚のシーボルト図
   ザクセン = ヴァイマル = アイゼナハ大公国の日本への飽くなき関心

第五章 日本におけるプロイセン式三角測量
一 日本の三角測量の基礎を築いた田坂大尉
 1 プロイセンに留学した日本人将校たち 第一次世界大戦まで
 2 ドイツにおける田坂虎之助の足跡 公文書調査から判明したこと
 3 ヨルダンの教科書翻訳とその改訂
二 日本アルプスの測量調査
  1 日本の一等三角点網と測量官・館潔彦
  2 日本山岳会創設
 3 柴崎測量官と剱岳測量

終わりに

謝辞

文献リスト
主要人名索引

関連情報

『出版ニュース』ブックガイド (2015年11月中旬号)
 
三浦基弘氏・評 月刊『測量』(日本測量協会 2016年1月号)
 
松原宏氏・評 東京大学『教養学部報』(第580号、2016年1月6日)
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/about/booklet-gazette/bulletin/580/open/580-2-3.html
 
杉山滋郎氏・評 『日経サイエンス』(2016年3月号)
 
熊木洋太氏・評 『地学雑誌』(VOL.125 No.3、2016年6月25日発行)
http://journal.geog.or.jp/images/articles/125-3/N47.pdf
 
慶應義塾機関誌『三田評論』(2015年12月号)「執筆ノート」での自著紹介
 
月刊『測量』(2016年5月号)自著紹介および関連Topics「こぼれ話」(10月・11月号)
 
東京大学広報誌『淡青』(2016年9月33号、20頁)
http://www.u-tokyo.ac.jp/content/400044700.pdf
 
東京大学・工学部図書館企画「測量展 故きを温ねて新しきを知る」工1号館図書室A所蔵資料展示(展示期間: 2016年8月1日~10月7日)
http://library.t.u-tokyo.ac.jp/news/tenjiposter_2016_ko1a.jpg

平野篤司氏・評 東京大学大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻紀要『言語・情報・テクスト』(2016年12月VOL.23, 77-80頁)
 
トークイベント:
東京大学工学・情報理工学図書館発足10周年記念『センス・オブ・ワンダー』第1回
トークイベント『近代測量史への旅』2016年12月16日12:20-13:20(工2号館図書館)
http://library.t.u-tokyo.ac.jp/news/20161118_talkevent_sokuryo.htm

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