Reinventing Citizenship: Black Los Angeles, Korean Kawasaki, and Community Participation
280ページ、ペーパーバッグ
英語
2014年4月
978-0-8166-8112-9
University of Minnesota Press
自著『Reinventing Citizenship: Black Los Angeles, Korean Kawasaki, and Community Participation』では、米国で1960年代に行われた貧困対策事業 (「貧困との戦い」) をテーマとして取りあげ、「貧困との戦い」の中心であり貧困層の参加を目標として掲げた「コミュニティ活動事業 (CAP)」を、CAPの影響下で考案、実施された日本の「モデル・コミュニティ事業」と比較検討した。両者とも、各地で展開する「下」からの社会運動に突き上げられ、国家の「危機」的状況の中で住民の積極的・主体的参加を要請し、「コミュニティ」のコンセンサスを再構築することを目指した点で共通する。また、双方とも「コミュニティ」再生における女性の役割を強調したものの、女性を無償で働くボランティアとして配置した点でも軌を一にする。しかし、CAPには「下」からの運動が入り込み、再定義を行う余地、協働の産物と成りうる余地があった。実際、CAPが始まるやいなや、黒人解放運動や他のエスニック集団の運動、女性解放運動に関わった活動家は「包摂」と「排除」の間に生まれた隙間に入り込み、CAPを社会変革の手段へと変えようと試みた (1章)。一方、日本の「モデル・コミュニティ事業」の場合、住民を「日本国民」に限定することで、外国籍住民を拡大しつつあった福祉国家から排除する装置となった。「モデル・コミュニティ事業」は、自治省行政局の言葉を借りれば、「日本人の生活を第一優先にする」ために生み出されたのであり、それは日本が「単一民族」から成り立っているという歴史認識と深く結びついていた (2章)。
本書の後半では、米国及び日本政府が行ったそれぞれの「コミュニティ事業」に対して、ロスアンジェルスの黒人と川崎の在日の活動家がいかにオルタナティヴな「コミュニティ」及び「福祉」像を提供したのかを考察した。「コミュニティ事業」を、様々な行為を行う主体が交錯し、せめぎ合う <場> と位置づけ、多岐に渡る史料 (文書館史料、オーラル・ヒストリー、新聞、出版物等) を読み解くことで、黒人・在日居住区の活動家がいかに住民の組織化と政治参加を進め、抗争の足場を築いたかを分析した。米国の福祉国家の「内側」に入り込み、「住民参加」を政治進出の機会へ転換させた黒人側の戦略 (3~4章) と、日本の福祉国家の「外側」から「市民」の定義を問い直し、国籍条項撤廃運動へつなげた在日の活動家の戦略 (5~6章) を比較した。その際、アメリカの黒人神学と解放運動がいかに在日の活動家に受容され、「翻訳」されたのかを分析し、両者が連結し、国境を越えて運動が展開する動的過程を詳らかにした。これは、「アメリカ史」「日本史」という一国単位の歴史叙述を乗り越え、「他者」と位置づけられたアメリカ黒人、在日コリアンが異なった立場からいかにアメリカ及び日本の「市民権」概念の書き換えを行ったかを同時代的に考察する、新たな比較史 / 関係史の試みである。
(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 准教授 土屋 和代 / 2016)
本の目次
Introduction: Los Angeles and Kawasaki as Arenas of Struggle over Citizenship
1. Between Inclusion and Exclusion: The Origins of the U.S. Community Action Program
2. Fostering Community and Nationhood: Japan's Model Community Program
3. Struggling for Political Voice: Race and the Politics of Welfare in Los Angeles
4. Recasting the Community Action Program: The Pursuit of Race, Class, and Gender Equality in Los Angeles
5. Translating Black Theology into Korean Activism: The Hitachi Employment Discrimination Trial
6. Voicing Alternative Visions of Citizenship: The "Kawasaki System" of Welfare
Conclusion: The Interconnectedness of Oppression and Freedom
Acknowledgments
Notes
Bibliography
関連情報
[黒人史のサイト (BlackPast.org)] "The TransPacific Struggle over Citizenship: Seeking Welfare Rights in Kawasaki City, Japan and Los Angeles, California, 1962-1982"
http://www.blackpast.org/perspectives/transpacific-struggle-over-citizenship-seeking-welfare-rights-kawasaki-city-japan-and-l
書評 (英語):
Journal of American History 101, no. 4 (March, 2015): 1335-1336 (Reviewer: Dr. Mark Santow).
Law, Culture and the Humanities 11, no.2 (June, 2015): 319-321 (Dr. Julietta Hua).
The American Historical Review 120, no. 4 (October, 2015): 1455–1456 (Dr. Nadia Y. Kim).
Pacific Historical Review 85 no. 2 (May, 2016): 294-295 (Dr. Shelley S. Lee).
書評 (日本語):
村田勝幸氏 評『アメリカ太平洋研究』第15号 (2015年)、271-276頁
武井寛氏 評『同時代史研究』第8号 (2015年)、90-95頁
川島正樹氏 評『アメリカ研究』第50号 (2016年)、167-173頁