東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙の中央にロラン・バルドのポートレート写真

書籍名

L’AGE DES LETTRES 書簡の時代 ロラン・バルト晩年の肖像

著者名

アントワーヌ・コンパニョン (著)、 中地 義和 (訳)

判型など

216ページ、四六判

言語

日本語

発行年月日

2016年12月10日

ISBN コード

978-4-622-08563-8

出版社

みすず書房

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書簡の時代

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ロラン・バルト (1915-80) の著作を知らずとも、多くの人がその名を耳にしたことがあるだろう。1950年代から60年代にかけて人文学諸分野で起こった知の地殻変動ともいうべき「構造主義」を、文学批評や文明論の分野で最も先鋭に体現した一人である。彼の「物語の構造分析」や「作者の死」の観念は、世界の文学研究に影響力を持った。
 
アントワーヌ・コンパニョン (1950-) は、博識の文学史家、文学理論家にして、モンテーニュ、ボードレール、プルーストをめぐる卓越した研究で今日のフランス文学研究を牽引する学者である。また小説や自伝を書く作家でもある。2006年にフランス最高の高等教育機関コレージュ・ド・フランスの教授に就任した彼が、かつて同じ機関の教授を務めた師バルト (在職75‐80) との5年半にわたる交流を、そして師への負債を、師の生誕100年 (没後35年) を機に再考したのが本書である。コンパニョンが晩年のロラン・バルトから厚い信頼を寄せられる高弟にして年少の友人であったことは周知であったが、本書により、二人の関係の実態がようやく詳らかになった。
 
著者は、封印された親密な過去をこじ開けるような後ろめたさとともに、かつてバルトからもらった手紙の再読から始める (ただし書簡の引用は皆無だ)。本書が彷彿させるのは、孤独を好みながら誰かがそばにいないと生きていけず、大勢の取り巻きに囲まれながら寡黙を通す傷つきやすい人物像である。若き日の著者が肌で感じとった人間バルトを、弱点やセクシュアリティを含めて生き生きと描き出す点に本書最大の魅力がある。
 
現在のコンパニョンが二十代後半の自身を捉え直す自画像も、その青さ、愚かさを含めて魅力的だ。彼は理系の超エリート校を二つも卒業したものの文学への愛着が捨てられず、文転を決意する。その後も文学研究か創作かで悩む。バルトの仕事部屋に通された彼は、着想をメモしたカードをもとに著作を行う師の方法を目の当たりにして、職人的な勤勉さに打たれる。ただし、触発を受けても猿まねをしないのが彼の彼たるゆえんである。執筆にカードなど利用しないし、彼の仕事の大半は構造主義者たちが旧弊な遺物として斥けた文学史への関心を核としている。
 
バルトがコンパニョンを高く買ったのは、自身の方法とはかけ離れた独自性をもち、しかもそれが知性の深いところに根ざす独自性であったからだということが、本書を読むと納得される。親子ほどの年齢差にもかかわらず、知的には対等とも言える接し方をバルトがするのは、こうしたコンパニョンの知性への敬意からだった。
 
コンパニョンは1960年代までの理論家バルトには厳しい留保を示す反面、犀利な理論家から主観性を重んじる作家への変貌を深める晩年の一連の著作には賛辞を惜しまない。師の個々の仕事への明確な評価を持っているのだ。
 
徹底的な自己への忠実が師への忠実に直結するという師弟関係の、また文学研究の逆説的王道を、本書は鮮やかに例証している。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 中地 義和 / 2017)

本の目次

書簡の時代    1
二重の肖像  訳者解説    194
著者略歴  訳者略歴    212
 

関連情報

NIKKEI STYLE ブックレビュー [日本経済新聞朝刊2017年1月29日付]
書簡の時代 アントワーヌ・コンパニョン著 手紙で繙く恩師バルトの記憶
https://style.nikkei.com/article/DGXKZO12260580Y7A120C1MY6001?channel=DF130120166021
 
webふらんす【書評】コンパニョン 『書簡の時代:ロラン・バルト晩年の肖像』[評者] 宮下志朗 (2017.03.22)
http://webfrance.hakusuisha.co.jp/posts/90