東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白いシンプルな表紙に本の概要とモースのポートレート写真

書籍名

岩波文庫 白228-1 贈与論 他二篇

著者名

マルセル・モース (著)、 森山 工 (訳)

判型など

490ページ、文庫判、並製

言語

日本語

発行年月日

2014年7月16日

ISBN コード

978-4-00-342281-6

出版社

岩波書店

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

贈与論 他二篇

英語版ページ指定

英語ページを見る

本訳書は、贈与と交換をめぐる社会学的・人類学的研究の礎石となったマルセル・モース (1872-1950) の「贈与論」を中心とした翻訳である。「贈与論」は、贈与と交換を中心として社会のあり方を考究する哲学的な思索においても影響を与え続けている。
 
本書においてモースは、同時代のいわゆる未開社会 (ポリネシア、メラネシア、北米大陸北西沿岸地域など) に事例を求めるとともに、高文明のアルカイックな形態 (古代ローマ、古代ヒンドゥーなど) も綿密に調査し、贈与にもとづく交換関係がこれらの社会においては優越していることを論証している。そこには、社会が有するさまざまな側面 (政治的側面、法的側面、経済的側面、宗教=呪術的側面、審美的側面など) が一挙に凝縮して表出されることが論じられており、これをモースは「全体的社会的事象」として性格づけている。
 
モースが「贈与論」で取り上げる中心的な問いは、次の三点に要約される。
 
(1) 人はどうして自発的な装いのもとで、しかしながら実際には強制力に突き動かされて、贈与を行うのか。
 
(2) 人はどうして贈与されたものを受け取る義務を負うのか。
 
(3) 人はどうして贈与を受け取ったならば、それに返礼をする義務を負うのか。
 
とくに (3) について、モースは、贈与というものが贈与者の自己 (の何がしか) を与える行為であり、与えられた自己が自己自身に回帰しようとするという運動から説明しようとする。いずれにせよこの三重の問いは、詰まるところ、人間は、あるいは社会は、自分だけで自足することができず、他者に開かれていることが必要であるという問題意識に帰着する。したがってモースは、贈与にもとづく交換関係にこそ「人間存在の基底」があると見ている。すなわち、人間が個人的にも集団的にも自分の内部に閉塞するのではなく、「自分の外に出ること」に人間存在の基底があると主張するのである。
 
さらに、いわゆる未開社会やアルカイックな社会についてのモースの考察は、翻って、同時代の西欧近代的な市場社会に対する批判的な考察にも及んでいる。等価交換を原則とし、すべてを貨幣価値に還元して人間関係を把握するような市場原理を一方に見据えながら、贈与にもとづく交換関係を復権させることに近代社会の将来的な希望を見いだしているのである。
 
本訳書は、モースの主著とも呼べる「贈与論」に加えて、関連するモースの論考として「トラキア人における古代的な契約形態」ならびに「ギフト、ギフト」の二篇を訳出し、詳細な訳注を付したものである。
 

(紹介文執筆者: 総合文化研究科・教養学部 教授 森山 工 / 2017)

本の目次

トラキア人における古代的な契約形態
ギフト、ギフト
贈与論 ― アルカイックな社会における交換の形態と理由
  序論 贈与について、とりわけ、贈り物に対してお返しをする義務について

  第一章 贈り物を交換すること、および、贈り物に対してお返しをする義務 (ポリネシア)
    一 全体的給付、女の財-対-男の財 (サモア)
    二 与えられた物の霊 (マオリ)
    三 その他の主題。与える義務、受け取る義務
    四 備考 ― 人への贈り物と神々への贈り物

  第二章 この体系の広がり。気前の良さ、名誉、貨幣
    一 寛大さに関する諸規則。アンダマン諸島
    二 贈り物の交換の原理と理由と強度 (メラネシア)
    三 アメリカ北西部

  第三章 こうした諸原理の古代法および古代経済における残存
    一 人の法と物の法 (非常に古拙なローマ法)
    二 古典ヒンドゥー法
    三 ゲルマン法 (担保と贈り物)

  第四章 結論
    一 倫理に関する結論
    二 経済社会学ならびに政治経済学上の結論
    三 一般社会学ならびに倫理上の結論

訳注
訳者解説 ― マルセル・モースという「場所」
 

このページを読んだ人は、こんなページも見ています