東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に琉球の絵、青いオビ

書籍名

琉球史料学の船出 いま、歴史情報の海へ

著者名

黒嶋 敏、 屋良 健一郎 (編)

判型など

360ページ、四六判、上製

言語

日本語

発行年月日

2017年6月

ISBN コード

978-4-585-22175-3

出版社

勉誠出版

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琉球史料学の船出

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いまの沖縄県を中心とする地域には、かつて琉球という国家があった。日本・中国をはじめ朝鮮から東南アジアまで多くの国々と海を越えて通交し、国際社会に認められた独自の存在感を放つ王朝であった。その琉球に関する歴史を追究していこうとすると、大きな壁に直面することになる。琉球処分や太平洋戦争 (沖縄戦) などによって、琉球に関する数々のオリジナルの史料が失われてしまったのだ。歴史を考えるための重要な素材となる史料が、絶対的に少ない量しか残っていないとすれば、明らかにできる歴史像もまた限定されてしまうこととなる。
 
だが、残された史料をじっくり見てみると、記された文字に加え、いろいろな情報があることに気が付くだろう。たとえば、これまでは文字だけが注目されてきた一通の古文書も、モノとして観察すると、使われている紙の素材や墨の種類、あるいは文字と同じように視覚的な記号として機能していた花押 (サイン) や印章など、それぞれの意味を考えさせられる情報が詰まっていることが分かる。こうした歴史情報を史料に向き合って引き出していく方法は、とくに「史料学」と呼ばれ、近年は歴史学研究における基礎学問としての位置を築きつつある分野である。
 
この史料学の立場から、9人の研究者が残された琉球に関する史料に挑んだものが本書である。それぞれは文献史料に軸足を置いて、より多くの歴史情報を引き出そうと格闘しているが、解読していく文字は紙に記されたものに加え、石に刻まれたものもある。紙に記されたものには古文書や記録、のちの時代に成立した編纂物などがあり、そこには日本や中国の古文書も含まれている。これだけでも琉球に関する史料が、じつに豊富な種類を持つことをお分かりいただけるだろう。
 
分析する手法もユニークである。文字の書かれた位置や花押・印章のデザインの検討、さらにはデジタル顕微鏡を駆使して発見された紙質の差など、それぞれの詳細な観察結果が歴史的に意味のあるものだったことが論じられていく。また、文書のやり取りを行う儀礼の場に注目して、当時の誓約の意義や、文字と口頭による伝達の違いが明らかにされていく。
 
断片的な史料から、これほどの歴史情報が引き出せるということに、ちょっとした感慨を持っていただけるのではないだろうか。それは裏を返せば、まだまだ多くの歴史情報が、史料には眠っているということでもある。未知なる歴史情報の海が私たちの目の前に広がっており、そこに、琉球史料学の可能性が示されているといえるだろう。
 

(紹介文執筆者: 史料編纂所 准教授 黒嶋 敏 / 2017)

本の目次

  カラー口絵
  序言 ―船出にあたって―  黒嶋 敏・屋良健一郎
第一部  古琉球の史料学
  古琉球期の印章  上里隆史
  かな碑文に古琉球を読む  村井章介
  琉球辞令書の様式変化に関する考察  屋良健一郎
第二部 近世琉球の史料学
  琉球国中山王の花押と近世琉球  山田浩世
  近世琉球の国王起請文  麻生伸一
  「言上写」再論 ―近世琉球における上申・下達文書の形式と機能―  豊見山和行
第三部 周辺からの逆照射
  島津氏関係史料研究の課題 ―近世初期成立の覚書について―  畑山周平
  原本調査から見る豊臣秀吉の冊封と陪臣への授職  須田牧子
  "琉球渡海朱印状を読む ―原本調査の所見から―  黒嶋 敏
 

関連情報

書評:
『琉球新報』2017年10月22日付け朝刊 (評: 上原兼善 / 岡山大名誉教授)
https://this.kiji.is/294658383501001825
 

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