東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に江戸時代の武士や建物のイラスト

書籍名

描かれた行列 武士・異国・祭礼

著者名

久留島 浩 (編)

判型など

392ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2015年10月23日

ISBN コード

978-4-13-020154-4

出版社

東京大学出版会

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描かれた行列

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本書は国立歴史民俗博物館長の久留島浩氏を編者とする論文集であり、近世日本を中心としつつ中国・朝鮮をも含めた地域における行列図をテーマとした13本の論考から構成されている。久留島氏の序論にもあるように、本書のもとになったのは国立歴史民俗博物館で開催された企画展示「行列にみる近世 - 武士と異国と祭礼と」(2012年10月16日~12月9日) である。この企画展示では、日本における近世を「行列の時代」ととらえ、この時期に描かれた行列図を一堂に集めたうえで、(1) 武士たちの行列、(2) 外国からの使節の行列、(3) 祭礼の行列に大きく区分して展示した。いわば行列図を通して近世日本社会を考えようとする試みであった。本書はこの企画展示の問題意識を踏まえたもので、上述の三つの視角からの論考に加え、比較の視座を提供するという意図から中国と朝鮮の行列図に関する論考も収められている。
 
本書の意図するところは、あくまで行列図から近世日本社会を照射することにある。したがって本書の執筆者の多くはおもに日本近世史の研究者である。これに対し筆者は朝鮮中世・近世史を専攻しており、上述のように異国との比較という視座を提供するために日本の近世に相当する朝鮮時代後期の行列図についての論考を執筆した。その内容を簡単に紹介しておこう。
 
筆者が主として取り上げたのは、「班次図」と呼ばれる行列図である。朝鮮時代 (1392-1910) に国家が編纂した公的記録に『儀軌』と題するものがある。国王や王室で挙行される儀礼や大規模事業など、国家的重要行事に関する一部始終を記録した一種の報告書である。この『儀軌』に付図として収録された「班次図」には、各種行事における国王の行列が詳細に描かれた。しかしそれは鑑賞を目的とするものではなく、行事当日に1,000人を超える大行列を円滑に組織できるよう、関係者・参加者が事前に確認するための図面であった。それゆえ、人物や馬などの描写は画一的かつ単調だが精密であり、さらに行列を描くにあたり、左・右・後方の三つの視点が設定され、行列内の位置に応じて人物・馬の立つ向きが異なって描かれるという特徴がみられる。
 
ところが数多ある『儀軌』付図としての「班次図」のなかで『園幸乙卯整理儀軌』所収の「班次図」だけがまったく異なった描かれ方をしている。この「班次図」は1795年に正祖 (在位1776-1800) がおこなった行幸の行列を描くものだが、人物や馬の描写は表情や動作が多様であり、また行列全体も図の天地と同じ向きで描かれている (行列をみる視点が一箇所に固定されている)。要するに他の「班次図」に比べて絵画的要素が強いのである。ではなぜこの「班次図」だけがこのような描かれ方をしたのか。この点について筆者は、このときの正祖の行幸が持つ政治的な意味を念頭に置きつつ、この「班次図」が本来の図面としての役割とともに、このときの行列の壮麗さを後世に伝える記録画としても鑑賞できるように仕立てられたものであったとする仮説を提示した。その当否は今後の研究に俟つほかないが、これまであまり知られていなかった前近代朝鮮の行列図を日本の読者に詳しく紹介できた点でも意味ある論考ではなかったかと考えている。
 
なお、本書所収の論考中には筆者以外にも本学教員によるものが4本 (7章・11章・12章・13章) あることを付言しておきたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 六反田 豊 / 2016)

本の目次

序論 本書の構成と課題について  久留島浩
 I 武士たちの行列
1 加賀藩大名行列図屛風  深井甚三
2 描かれた「武士の行列」  久留島浩
3 大名行列人形の軌跡  岩淵令治
4 武具からみた行列図  近藤好和
 II 異国の行列
5 朝鮮通信使の江戸城登城・下城行列  ロナルド・トビ
  - 狩野益信筆「朝鮮通信使歓待図屛風」を中心に -
6 琉球国使節登城行列絵巻を読む  横山 學
7 オランダ商館長の江戸参府とその行列  松井洋子
 III 祭礼の行列
8 江戸の祭礼行列  福原敏男
9 描かれた天保一〇年春の京都  八反裕太郎
  - 蝶々踊図の新出作品の紹介を中心に -
10 近代仙台藩の渡物と行列  佐藤雅也
 IV 行列の比較
11 東寺本『弘法大師行状絵』の灌頂行列図  藤原重雄
12 開港場横浜の祭礼  木下直之
13 一八世紀北京の行列と祝典 - 万寿盛典における演劇利用について - 村上正和
14 「班次図」とその周辺 - 朝鮮時代後期の行列図 - 六反田 豊
 あとがき
 執筆者一覧

関連情報

紹介文執筆者:
人文社会系研究科教授 六反田 豊
http://www.l.u-tokyo.ac.jp/teacher/database/140.html?phpmyadmin=c53873f5a43613de1640d5512da37328

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