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白とベージュ、茶色の表紙、東アジアの古地図の画像

書籍名

日本近世史を見通す1 列島の平和と統合 近世前期

判型など

222ページ、A5判

言語

日本語

発行年月日

2023年8月24日

ISBN コード

9784642068840

出版社

吉川弘文館

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列島の平和と統合

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日本史では、江戸時代と、その政治的・社会的な枠組みを形づくった織田信長や豊臣秀吉の時代 (とくに後者) をあわせて近世と呼んでいる。本書は、日本近世史の研究成果を集成して、総合的な時代像を示し、近世という時代を見通そうと企画されたシリーズの1冊めである。1~3巻で通史的な見通しを示し、4~6巻はテーマ別の巻として、近世社会や近世史研究の厚みを提示しようと努めた。注をつけず、一般読者も読みやすいように工夫した。その第1巻に当たる本書では、信長・秀吉の時代から17世紀末頃までの政治と対外関係を対象としている。
 
通史を叙述する方法としては、中央の政局史・制度史を中心に、政権担当者が何を行ったかを年代記的に描いてゆく方法がオーソドックスであろう。列島の政治や軍事を動かしたのは天下人やその権力であり、彼らの動きにフォーカスするのは当然の視点であろう。ただし、この方法には大きな限界もある。
 
天下人の眼から見ると、たとえばアイヌなど列島北方の勢力や社会、列島南方の琉球の人びとの姿は、客体としてわずかに現れるだけである。それだけでなく、そもそも全国津々浦々で、さまざまな人びとの主体的な動きや営みがあったはずだが、そうした様子はほとんど描かれなくなってしまう。列島外部の世界とのつながりや交流なども視野に収めなければならないはずだ。
 
実際の叙述は、こうした2つの、というより、さまざまな観点を組み合わせて行うことになる。本書では、まず第1章「世界のなかの近世日本」で、列島における近世の幕開けを、世界的な地域間交流のうねりと、それに対応して登場した天下人の政権構想、その帰結という観点から描いてみた。第2章も、当該期の地域間交流のうち最大のできごとだった秀吉の朝鮮侵略戦争 (壬辰戦争) を、近世日本成立のなかに位置づけて論じている。
 
以下、第3章で幕藩政治・武家社会のあり方を、第4章で朝廷の再構築を、第6章で琉球 (との関係)、第7章で北方 (アイヌと松前) を描き、第5章では島原・天草一揆とキリシタン禁制政策を考えるという構成をとっている。第3章は「武断政治から文治政治へ」という戦前以来の見方の修正を打ち出し、第6章では、これまで寛永の「鎖国」政策と呼ばれてきたものを、ひとまず日本版の「海禁」政策ととらえ、その諸規制がどのように琉球に及んだのかを論じている。7章で北方では時代区分が列島中央部とずれるとされているのも、当然のことだろう。
 
このようにみてみると、村や町など地域社会や人びとのあり方、文化や思想・宗教を4~6巻に譲ったこともあり、この間の研究潮流を反映して、対外関係を重視した構成になっている。日本近世が、決して閉ざされた島国の歴史でなかったことは、いまや当然である。むしろ、日本列島を巻き込んださまざまな地域間交流のうねりのなかで、それにどう規定されて、一見、強固な江戸時代の秩序 (幕藩体制) が形成され、成り立っていたのか。読者の皆さんにもぜひ考えていただきたい。
 

(紹介文執筆者: 人文社会系研究科・文学部 教授 牧原 成征 / 2024)

本の目次

プロローグ 現代からみる近世の幕開け……牧原成征
第1章 世界のなかの近世日本……牧原成征
第2章 「豊臣の平和」と壬辰戦争……谷 徹也
 コラムI 天下人の装束……寺嶋一根
第3章 幕藩政治の確立……三宅正浩
 コラムII 明暦の大火……岩本 馨
第4章 近世朝廷と統一政権……村 和明
第5章 島原の乱と禁教政策の転換……木村直樹
第6章 琉球に及んだ海禁……木土博成
第7章 列島北方の「近世」……上田哲司
エピローグ 泰平のなかでの転換へ……村 和明

関連情報

書評:
木村俊哉 評 (『立命館アジア・日本研究学術年報』第5号 2024年)
https://en.ritsumei.ac.jp/file.jsp?id=629062
 
書籍紹介:
ブックウォッチング (『毎日新聞』 2023年10月4日)
https://mainichi.jp/articles/20231004/ddm/010/070/010000c

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