東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

ベージュの表紙の中央に白の四角のデザイン。赤い帯。

書籍名

集英社新書 「文系学部廃止」の衝撃

著者名

吉見 俊哉

判型など

256ページ

言語

日本語

発行年月日

2016年2月

ISBN コード

978-4-08-720823-8

出版社

集英社

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「文系学部廃止」の衝撃

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2015年夏、文部科学省が国立大学の文系学部の廃止・縮小という方針を示したという報道が世間を駆けめぐり、マスコミと世間は文科省を一斉に批判した。本書では、この報道がどのように生まれたのかを詳細に検証し、それが必ずしも真実ではないこと、むしろこの報道には安倍政権に対する攻撃材料を探していたマスコミに勇み足であったこと、騒動の最大の責任者は文科省ではなくマスコミであったことを明らかにした。その上で、国立大学の人文社会科学系の弱体化が国立大学法人化以降、10年以上にわたり進んできたこと、そしてこの問題の根本は「理系は役に立つけれど、文系は役に立たない」という通念にあることを示していった。
 
本書で著者は、文系は必ず「役に立つ」という主張を展開している。「役に立つ」には、ある目的に対する手段として役に立つ手段的有用性と、目的や価値自体を創出する価値創造的な役立ちがある。第1の手段的有用性は、理工学系が得意なところだが、その目的が社会的な価値を失ってしまったら途端に役に立たなくなる。実際、社会の価値は、30年、50年という単位で必ず大きく変化してきた。だからそうした価値の変化を分析し、変化を先導していける知が必要なのであり、そこで文系の学問が不可欠になって来る。複数の価値の間にある差異やある価値から別の価値への転換を考察することは、文系の知の根本である。文系の知は、私たちが当たり前と思っている価値観や目的を疑ってかかり、相対化し、内側から突き崩し、価値の転換をリードしていくことで長いスパンで役に立つのである。
 
こうした視座を、本書は文系的な知の歴史をたどりながら明らかにしている。中世の大学における「神学」「法学」「医学」に対し、リベラルアーツが持っていた根底的な役割。近代の出版と結びついた哲学や人文学の発展。19世紀以降の産業革命と理工系的な知の拡大のなかで、初めて自然科学と人文社会科学がはっきりと分離し、後者の存在価値が問われるようになっていったこと。そして20世紀初頭、マックス・ウェーバーをはじめ新カント派の人々によって、人文社会科学は「価値」の学であるという結論に達していったことを再確認した。
 
さらに本書では、このような文系的な知の有用性を未来の大学で生かしていくにはどうすればいいかについても考察した。そのためには大学は、入試の壁、就活の壁、学年の壁、学部の壁、言語の壁といった現在の大学で学びを分断している諸々の壁に孔を穿たなければならず、いわば甲殻類から脊椎動物に進化する必要がある。つまり、殻を自ら壊していって、異なる部分の間に縦骨や横骨を通していく必要があるのである。それにはまず、複雑化した知識社会の多元的性に対応する二刀流の学び、つまりダブル・メジャーやメジャー・マイナーの仕組みを取り入れていく必要がある。同時に、大学を人生の通過儀礼からキャリアやビジョンの転轍機への変えていくことにより、多くの人が人生で3回大学に入るのが当り前の社会を作り上げていかなければならないというのが、本書の主な主張である。
 

(紹介文執筆者: 情報学環 教授 吉見 俊哉 / 2018)

本の目次

第一章 「文系学部廃止」という衝撃
 
第二章 文系は、役に立つ
 
第三章 二一世紀の宮本武蔵
 
第四章 人生で三回、大学に入る
 
終章 普遍性・有用性・遊戯性

関連情報

週間読書人ウェブ:
集中連載=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』(2016年9月9日)
http://dokushojin.com/article.html?i=778
 
集中連載2=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』(2016年9月16日)
http://dokushojin.com/article.html?i=779
 
集中連載3=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃』(2016年9月30日)
http://dokushojin.com/article.html?i=780
 
集中連載4=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年10月7日)
http://dokushojin.com/article.html?i=781
 
集中連載5=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年10月14日)
http://dokushojin.com/article.html?i=782
 
集中連載6=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年10月21日)
http://dokushojin.com/article.html?i=783
 
集中連載7=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年10月28日)
http://dokushojin.com/article.html?i=784
 
集中連載8=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年11月4日)
http://dokushojin.com/article.html?i=785
 
集中連載9=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年11月11日)
http://dokushojin.com/article.html?i=786
 
集中連載10=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年11月18日)
http://dokushojin.com/article.html?i=787
 
集中連載11=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年11月25日)
http://dokushojin.com/article.html?i=788
 
集中連載12=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年12月2日)
http://dokushojin.com/article.html?i=789
 
集中連載13=吉見俊哉・室井尚『文系学部解体』VS『「文系学部廃止」の衝撃(2016年12月9日)
http://dokushojin.com/article.html?i=790
 
毎日新聞: 今週の本棚 (会員限定有料記事: 2016年3月6日)
村上陽一郎・評 『「文系学部廃止」の衝撃』=吉見俊哉・著
https://mainichi.jp/articles/20160306/ddm/015/070/017000c
 

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