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白い表紙に7枚の住居写真

書籍名

住総研住まい読本シリーズ4 住まいの冒険 ~生きる場所をつくるということ~

判型など

200ページ、A5判、並製

言語

日本語

発行年月日

2015年4月

ISBN コード

978-489491-290-8

出版社

萌文社

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様々な建築事例や論考から、人が生きることと、住まいづくりとが、直接的に深い関係を持つ可能性を明らかにしている。5名の建築分野の編著者 (木下勇、内田青蔵、松村秀一、宮前眞理子、村田真) の論考の他に、哲学者の福井一光、内山節の二人から、それぞれ「西田哲学理解の手がかりー『作られたものから作るものへ』をめぐって」、「人間の存在と関係」と題する特別寄稿を掲載している。
 
松村の執筆した論考は二つである。一つは「住宅生産における『関係』の行方」。この論考では、1950年代~1960年代に欧州中心に展開された公共的な住宅の大量供給 (マスハウジング) を、住み手の主体性の喪失という観点から痛烈に批判したオランダ人建築家ニコラス・ジョン・ハブラーケンの、人と住まいの関係に関する1970年頃の考察を手掛かりに、現在日本社会における住み手と住まいの関係を分析している。そこでは、1980年代以降に日本の住宅産業で高度の発達したマスカスタマイゼーションの技術的、組織的背景が明らかにされ、一旦はかつてハブラ―ケンが批判したような画一的で個々の住み手の要求等を無視したかたちの住宅供給とは、まったく違う地点に辿り着いていることに言及するが、その後、そこに見られる住み手と生産者の間の顔の見えない関係という性格に迫る。そして、この現代の関係をより豊かな関係に変える方法について考察している。具体的には、これまで技術的な考察では対象にされてこなかった住宅産業の営業担当者の、住み手と直接接する唯一の職種という属性が持つ可能性に着目し、今日セルフリノベーション等の新たな分野で起こっている住み手の主導による住まいづくりに向けた動きの要素を導入する方法を示唆している。
 
松村による二つ目の論考は「住宅生産における技能者の自己実現について」である。前節の「住宅生産における『関係』の行方」では、住み手の主体性に関わる事柄を考察対象としていたが、ここでは、つくり手、なかんずく技能者 (職人) の主体性に関わる事柄を考察している。昔ながらの職人の世界が、専門分化の進行によっていかに形を変えてきたかを観察した上で、技能者を住まいづくりの中に位置付け直すある種の編集行為が重要であり、また既存住宅のリノベーションなどにおいては新しい技能者の像や新しいチーム編成が求められるとしている。また、同時に未来の方向として多能工、多能チーム等の概念を提示している。
 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任教授 松村 秀一 / 2018)

本の目次

まえがき
第1章  住まいの冒険 -「おや?」の契機としての事象
第2章  住まい・家族・地域の変容
第3章  住まいをつくる技能・制度・文化
第4章  生きる場所をつくるということ
あとがき
 

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