東京大学教員の著作を著者自らが語る広場

白い表紙に蛍光ピンクのライン

書籍名

朝日新書 空き家を活かす 空間資源大国ニッポンの知恵

著者名

松村 秀一

判型など

192ページ、新書判

言語

日本語

発行年月日

2018年11月13日

ISBN コード

9784022737984

出版社

朝日新聞出版

出版社URL

書籍紹介ページ

学内図書館貸出状況(OPAC)

空き家を活かす

その他

品切れ・再版未定

英語版ページ指定

英語ページを見る

高度成長期の始まりの時期、例えば政府による統計の残されている1963年の住宅総数を例にとれば、日本の住宅総数は2110万戸にすぎず、その数は同じ年の総世帯数2180万よりも少なかった。住宅が、建物がまだまだ不足していたのである。それから50年後の2013年の同じ統計を見てみると、日本の住宅総数は6060万戸に達し、その数は同じ年の総世帯数5250万を800万以上も上回っている。数の上で、日本の住宅や建物は十分な量存在し、今や空き家や空きビルが目立つ時代になっている。再び住宅を例にとると、2013年時点で日本は一人当たり0.48戸の住宅を有しており、これは同年のアメリカの0.42戸という数字よりも遥かに大きい。本書では、このように数の上で余る程に存在する建物を、私たちの「空間資源」と捉える。そして、上述のような数字からすれば現代日本は空間資源大国と呼んでもおかしくない状況にある。
 
本書が扱うのは、そうした現にこの国に存在する建物と人々との間の新たな関係についてである。そうは言っても、建物の方は建替えられない限り、建設された時代からそう大きく変化するわけではない。1963年に建ったものであれば、そういう風情で建っている。他方で、人々の方はどうかと言えば、こちらは相当に変わっている。高度経済成長のような社会全体で共有できる大きな物語に身を委ねられる時代ではなくなり、それぞれの人が自分の或いはそれぞれの人の集まりの小さな物語を見つけ出し、楽しみながら生きる時代に変わってきている。そのように人々の生き方が変わっていく時、建物と人々の関係は変わる。しかも建物は余っている。人々はその余っている、そして長い間鈍感な程そのままでそこに建ち続けてきた建物に、それぞれに固有な魅力を発見し、そこを自分たちの新しい生き方の「場」にしてやろうとか、自分たちの「遊び」に使ってやろうと考え始める。そんな人々の新しい生き方が鈍感だった建物に埋め込まれていくと、鈍感だった建物の遊べる空間としての素質が開花する。
 
そうした空間資源と人々の新しくて楽しく豊かな関係が、日本中で見られるようになれば素晴らしい。本書では、そうした建物と人々との新たな関係の先駆的な例として、和歌山市、徳島県神山町、東京CETエリア、長野市、福岡市、岡山市、小松市、座間市、更には上海や台中等の海外の例をも取り上げ、どういう人たちがどういう経緯でどういう建物をどのようにリノベーションし、何を成し遂げているかを具体的に紹介しながら、新たなリノベーションによる暮らしの場としてのまちづくりの可能性を明らかにしている。

 

(紹介文執筆者: 工学系研究科 特任教授 松村 秀一 / 2020)

本の目次

はじめに──未来の風景、花咲く鈍感さ

第1章 空き家で遊ぶ
空間資源の可能性を引き出したアーティスト
鋸屋根の工場が現代美術になっていた
完成図も用途も工期もないプロジェクト
空間資源大国だからこその「遊び」
勢いのない「仕事」vs末広がりな「遊び」

第2章 小さな物語でまちを変える
あの鋸屋根の小さな物語
所得倍増計画と2DK
映画で鑑賞する時代の空気
大きな物語の抜け殻を資源と見なす
小さな物語の孵卵器
日本のまちは小さな持ち主の小さな建物でできている
不揃いだから面白い
マッチングサービスが隠れ資産を見つけ出す
マクロからではなくまずはミクロから遊ぶ

第3章 遊びがまちを変える
仕事でできた「箱」、遊びでつくる「場」
生活の場はまちに広がる
点から線へ、線から面へと拡張する遊び

・「ストックで遊ぶ」第1例
リノベーションスクールがまちなかを変える和歌山市
紀ノ川と和歌山城
宝のような空間資源を発見する
次々と現れるまちづくりの担い手たち

・「ストックで遊ぶ」第2例
「創造的過疎」を標榜する徳島県神山町
それは国際交流から始まった
アーティストを「お接待」する
「仕事ごと移住」という発想
職業訓練に集う首都圏の女性たち

・「ストックで遊ぶ」第3例
遊び心のビジネスモデルが誕生した東京CETエリア
2003年問題の頃
Central East Tokyo
ブログから現れた不動産ビジネス

・「ストックで遊ぶ」第4例
100以上のスモールビジネスが埋め込まれた長野市の門前町
故郷に戻った波乗りの男
まちを守る小劇場のひと
古き良き未来地図

・「ストックで遊ぶ」第5例
大家の心意気がまちを刺激する福岡
「大家」の復興
大家業、継いではみたものの
まちのリノベーションミュージアムという発想
人を育てる大家業
まちの担い手の育成へ

・「ストックで遊ぶ」第6例
列島改造時代のストックに今を吹き込む岡山市問屋町
1968年生まれ
問屋町

・「ストックで遊ぶ」第7例
廃寺をごちゃまぜ型福祉施設に仕立て直した石川県小松市野田町
寺とコンビニ
まちに開かれた場づくり
「脱施設」と路線バス

・「ストックで遊ぶ」第8例
「駅前団地」再び──神奈川県座間市
東西の先駆者
まちの空間資源としての団地
小さな物語を秘めたネーミング

第4章 ニッポンの切り拓くフロンティア
「取り壊せない」ということ
状況先進地帯だということ
文化財じゃ遊べないということ
継承でないということ
アジアの国々でも──上海の場合
アジアの国々でも──台中の場合
アジアの国々でも──嘉義の場合
希望は耕されつつある

あとがき──ストックで遊ぶ社会へ
 

関連情報

特集記事:
【研究室散歩】@建築構法学 松村秀一特任教授 「もし、新築が0になったら」 (『東大新聞オンライン』 2021年6月11日)
https://www.todaishimbun.org/sannpo210611/
 

書評:
(『建築技術』2019年2月号 2019年1月17日)
https://www.k-gijutsu.co.jp/book/b10030835.html
 
書籍レビュー (Housing Tribune Online 2018年12月10日)
https://htonline.sohjusha.co.jp/4022737980/
 
書籍紹介:
空き家・空き地の可能性を見出すための10冊 (大阪ガスネットワーク エネルギー・文化研究所 2023年3月1日)
https://www.og-cel.jp/search/1720180_16068.html

このページを読んだ人は、こんなページも見ています